オンライン英会話は授業に適しているか
堺市は学校の英語の授業で、オンライン英会話の導入を目指すようです。
今議会では、そのモデル実施のための補正予算が計上され、私もそれについて議論しました。
オンライン英会話は、児童・生徒一人ひとりがインターネットを通じて、画面越しに、海外にいる外国人講師と、基本的に一対一で、日本語なしの英語のみで、ヘッドホンをつけて、1回25分間にわたって会話をし、英語力の向上を目指すものです。それを、小学5年生と、中学2年生にやらせようと言うのです。
このオンライン英会話によって、英語の習熟度が上がる子、英語が好きになる子もおそらくいることでしょう。また、現在のネイティブスピーカーによる授業が、1人の外国人に対して、3~40人の生徒がいることもあり、会話の頻度を増やすという点で、課題もあります。
しかしながら、オンラインという手法で1対1になる環境を作ることが、そもそもの公教育および英語教育の目的に適うのかどうか、いくつかの懸念があり、そのことを文教委員会、および本日の本会議で表明しました。
1つは、子どもは多様だということです。
英語力だけでなく、コミュニケーション能力、障害の有無など、子どもたちは実に様々です。大人と面と向き合えない子、言葉で表現が苦手な子、長時間じっとしていらない子、いろんな子がいる。それが子どもです。
市長は1対1のメリットを、「緊張した時間を過ごすことができる」としましたが、どうしても、緊張に耐えられない子、それが苦痛でしかない子もいます。大人ですら、大学を卒業した英語力のある人ですら、「最初は緊張する」と市長自身が述べたオンライン英会話です。少なからぬ子どもにとって、それが苦痛とならないか、むしろ英語への苦手意識を植え付けることにならないかと危惧します。
経験によって慣れる子もいるでしょうが、いくら経験してもそうはならない子、そういう特性の子がいるということを、多くの子と触れ合ってきた教育委員会の、とりわけ教員の皆様なら、知っているはずです。日本語ができない、画面越しの外国人講師に、子どもたちの微妙な状態を把握し、柔軟に対応することを、どこまで求められるでしょうか。
どんな授業形態でも、嫌がる子、苦痛となる子は出てきますが、「それをできる限り減らすための柔軟な対応」が、オンライン英会話ではできないのです。「誰一人取り残さない」ということは、公教育の大前提です。
2つ目は、担当教師が子どもの状態をタイムリーに把握できない、サポートできないということです。
子どもがオンライン上で、海外にいる講師とどんな会話をしているのかは、個々に接続したヘッドホンによってしか確認できず、子どもがどんなことに詰まっているのか、どのような心理状態になっているのか、数十人のクラスにおいて、タイムリーに把握することは不可能です。これは、授業前後の英語の学習指導という面においても、緊張状態の子どもをケアするという面においても、大きなデメリットです。
3つ目は、事務の煩雑さです。
オンライン英会話の効果を出すには、各児童・生徒の習熟度や特性を、海外にいる講師に授業前に伝えなければなりません。また、事後に会話がどうであったか、児童・生徒の課題が何であったのかの報告を受け、担当教師はそれを今後に活かさなければなりません。国内の運営事業者を通じたそのやり取りは、教師にとって大きな事務負担となるでしょう。
また、将来的なオンライン英会話の導入の対象とされる、小5、中2の児童・生徒は、今年度時点で合計1.4万人以上ですが、それだけの講師がいるわけではありません。各学校間でのオンライン英会話のための時間割調整は、大変な作業になるでしょう。
オンライン英会話を「各単元の最後に」復習として活用するようですがが、時間割調整で、どうしても単元の始めになってしまう学校もあるでしょう。狙い通りの活用方法が、果たして全校できるでしょうか。
4つ目は、学び合いです。
子どもたちは集団の中で、互いの得手不得手や違いを知り、刺激し合いながら、時に助け合いながら成長します。この学び合いの実践の場こそが、学校であると考えます。その学校で、あえて1対1の空間、他の子がどのような状況かわからない環境を作ることが、本当に学校がやるべき英語教育なのかどうか、よくよく考えなければなりません。
英語の上手な子の発音を、そうでない子が聴く。あるいは、苦手な子のやり取りを上手な子が見聞きして、教えてあげる。そういった中にこそ、公教育の目指す姿があるのではないでしょうか。
5つ目は、公教育におけるオンライン英会話の効果が明らかになっていないことです。
全国のいくつかの自治体で、オンライン英会話が実施されているものの、実施からの日が浅く、その効果は明らかになっておりません。教育はそもそも失敗がゆるされるものではありません。先に危惧した4つの観点で、他市の結果がどうなったのか、明らかになってからでも遅くはないはずです。急がなければならない必要性はありません。モデル校からの実験的実施だそうですが、子どもたちは実験台ではないのです。
文教委員会での答弁によれば、予算面のみで比較すると、25分のオンライン英会話を実施するのと同じ予算で、45分ないし50分、つまり一コマまるまるの、現実のネイティブスピーカーによる、1対4程度の超少人数授業の実施が可能です。現在の1対3~40では得られない「会話の頻度」を増やしつつ、子どもたちのリアルな状況をその場にいる外国人講師、日本人の担当教師の双方で把握しつつ、授業を進め、子どもたちの学び合いを促すこともできます。画面越しではないリアルな接触、授業時間だけではない、休憩時間や給食時間など、様々な場での接触から、子どもたちの外国文化の理解や、多面的な思考や寛容の精神の醸成が、より進むのではないでしょうか。単なる英語力の向上ではなく、そういったことが英語教育の目的なのではないでしょうか。
少なくとも学校の授業として、以上のような超少人数授業よりも、オンラインの方が優れている点は、なかなか思い当たりません。
オンライン英会話を実施するにしても、一律ではなく、例えば放課後や、補習の時間などで、「やりたい子がやれる」環境を用意することには反対ではなく、むしろ積極的にやればいいと思います。
「授業の中で」、「子どもの特性を度外視して」、「一律で実施」することに、私は強い懸念があるのです。
以上のことから、この議案には反対したい気持ちがありました。しかしこれは、「教育の中身」「授業のやり方」に関わる議案です。教育の具体的な内容については、予算面で財政上の問題がある場合などを除き、できる限り教育のプロである、教育委員会の判断を尊重すべきです。(どうも、教育委員会内にも懸念の声があるように感じますが・・)
よって、これらの懸念に十分に配慮し、慎重に制度設計して頂くことを強く求めて、本議案を容認しました。
堺市議会議員ふちがみ猛志