保護司殺害事件を受けて
こんにちは。堺市議会議員(堺区)のふちがみ猛志です。
滋賀県で長く保護司として更生保護に尽力してこられた方が殺害され、保護観察中だった男が容疑者として逮捕されるという、大変痛ましい事件が起こりました。
https://mainichi.jp/articles/20240607/k00/00m/040/038000c
※毎日新聞ニュースより
そして昨日、事件後で初めてとなる私の地区の保護司会の役員会が開かれ、会長から「不安を感じている人はいませんか?」との問いかけがありました。
が、手をあげる人は誰もおらず、いつもと何も変わらない様子。
もちろん、同じ立場の人が殺害された事件そのものは重く受け止めています。しかし、私も含め大半の保護司は、保護司という仕事が不安になっているわけではありません。
なぜ・・?
今日は市議会議員であり、保護司でもある立場としてブログを書こうと思います。
まずお伝えしたいこと
大多数の保護観察対象者は、「更生したい」と心から願っています。
もちろん、残念ながら更生できず、再犯してしまう対象者もいます。私もこれまで担当した中で、再犯・再非行してしまった対象者が複数いましたし、少なからぬ再犯の事例を保護司仲間の話から、あるいは研修会などで見聞きしてきました。
その上で断言できます。「初めから再犯したい人間など、ほとんどいない」ということを。
再犯の最大の要因は社会的孤立とも言われています。
「職がない」というのはその典型ですが、仕事場に限らず、学校や家庭も含め、「居場所がない」「人とのつながりが少ない」ということが、多くの再犯者に共通しています。
※再犯者の7割以上が無職。NHKより。
保護観察対象者を社会全体で包摂することが更生の近道であり、逆に彼らへの偏見は、社会的孤立を助長し、再犯へと誘います。
今回の事件で最も懸念されるのは、保護観察対象者や、過去に犯罪歴・非行歴のある方々が危険人物のように見なされ、偏見にさらされ、孤立を深め、再犯してしまう。そして、再犯率の向上によって社会の目がさらに厳しくなり、また偏見と孤立がさらに深まり・・・という悪循環を招くのではないかということです。
共通する逆境体験
犯罪や非行をした人、まして再犯した人には当然ながら、その個人に大きな責任があるのは言うまでもありません。
それでも、「その個人だけが悪いわけではない」といつも思うのは、多くの犯罪者や非行少年には、幼少期・青年期に逆境体験があるからです。
被虐待、ネグレクト、父親から母親へのDV、両親の別居・離婚、家族のアルコール・薬物・ギャンブル依存、家族の精神疾患・自殺未遂、家族の服役・・・などです。
子どもの頃にそのようなことを経験し、心に大きな傷を負い、人生の歯車を大きく狂わし、その後、非行や犯罪へと進んでしまった人が少なくありません。
逆境体験のある人のすべてが非行や犯罪をするわけでは決してありませんが、
非行や犯罪をする人のほとんどに逆境体験があると言っても過言ではありません。
その事実に接する度に、その逆境体験を防げなかったのか、あるいは逆境体験があった時に行政や家族以外の誰かがその子どもを支援することができなかったのかと、つくづく思うのです。
だから私は、対象者本人だけを責める気にはなれないのです。
保護司不足の決定打になってしまわないか
今回の事件を受けて「保護司の仕事は危険」というイメージが付きまとってしまうかもしれません。いや、大なり小なりそうなるでしょう。
※中日新聞ニュースより
ですが、実際にやっている私たち保護司本人は、保護観察対象者の顔が見えています。それぞれの背景も知り、大多数の対象者が素顔は案外普通な人間であることをよくわかっているのです。
それに、そもそも重大犯罪をした人、更生する気がまったくない人は仮出所・仮退院できませんから、私たち保護司のもとにもまわってきません。
なので「危険だ」と深刻に捉えている人は非常に少なく、それが冒頭の保護司会の役員会での反応にも表れていたようにも思います。
一方で、保護司の家族や、これから保護司になろうとしている人はそうもいかないでしょう。
今回の事件は大変残念であるものの、極めてレアケースです。ですが、犯罪・非行歴のある人と接した経験のない人にとっては、あらゆる保護観察対象者が、今回の容疑者と同じ「犯罪・非行をした人であり、危険な存在」と映るかもしれません。
昨今の保護司不足は深刻で、保護司の定年を引き上げるなどしてなんとか凌いでいる状態です。
今回の事件を受け、「家族の反対でなるのをやめる」なんて人も出てくるでしょうし、保護司不足に拍車がかかる決定打になるのではないかと、私は大変心配しています。
私が議員として取り組んだこと
保護司が対象者との面談で、区役所の面談室を借りられるようにする。
これは私と、同じく保護司である木畑議員とが取り組んだものです。
たいていの保護司は自宅で保護観察対象者と面談しています。
しかし、今回のような事件があると、自宅に対象者を呼ぶことに反対する家族もいるでしょうし、特に経験の浅い保護司はためらうかもしれません。
そこで保護司会では「更生保護サポートセンター」という面談スペースを用意してはいるのですが、たとえば堺市は各区に1か所ですし、保護司会が自ら場所を手配しているので、必ずしも立地のいいところではありません。
近所の保護司宅にすら足を運ぶのを面倒くさがる対象者はいくらでもおりますので、まして遠く離れた更生保護サポートセンターに来てもらうのは困難な場合が多いです。
その点、区の中心部にあり、立地のいい区役所は面談場所として最適です。
面談室のすぐ外には役所の職員もいますから、トラブルが起こるリスク・不安も軽減されます。
区役所の面談室を使えることは、これから保護司になろうとする人やその家族にとって、一つの安心材料となるはずです。
今回の事件を受け、改めて「取り組んでよかった」と思っています。
が、まだ保護司の中でも周知不足ですから、その点は今後解消を図りたいと思います。
保護司はボランティアであり続けるべきか
報道を見ておりますと、「こんなに大変な仕事なのにボランティアでいいのだろうか?」という意見が見受けられます。
これは、保護司会でも盛んに議論になるテーマです。
仕事の重さだけで言えば、それなりの報酬があって然るべきものだと思います。
しかしながら、ボランティアでやっているからこそ、対象者が敬意を持って接してくれるという側面があります。
報酬をもらってしまうと、「どうせ金をもらってやっているんだろう」と、対象者の姿勢が変わるかもしれません。
ところが私たち、実はボランティアどころか、会費を払って保護司をやっているのです。
堺の保護司は年会費24,000円です。
決して安くないですよね?理解できますか??
このお金は主に定期的に行われる研修会の費用などに充てられています。
私はせめて、このような会の運営費用だけでも、行政が負担すべきではないかと思っています。
ボランティアで構わないから、保護司自身に費用負担が発生するようなことはなくしてほしい。これが私の思うところです。
たとえば、堺市が堺市内の保護司の保護司会費を全額負担しても、年間わずか1000万円程度です。
やっていることの公益性から考えれば、これくらいはいいじゃないでしょうか。
私たちも知り合いを保護司に勧誘しようと思っても、報酬がないどころか「負担がある」なんて、誘いづらくて仕方がありません。
最後に
改めて、今回亡くなられた保護司の新庄博司さんのご冥福を心からお祈り申し上げます。
報道を見る限り、本当に素晴らしい保護司さんだったんだと思います。さぞかし無念だったことでしょう。
この事件は、保護司のあり方に少なからぬ影響を与えることでしょう。
どのようなことになるかはまだわかりませんが、少なくともこの事件によって更生保護行政が停滞しないこと、それが亡くなった新庄さんへの最大の供養だと思います。
私も微力ですが、立派な先輩保護司の意思を少しでも引き継いで、これからもボランティア精神で保護司活動を頑張って続けていきます。
堺市議会議員ふちがみ猛志
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