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大小路に自動運転バスを導入?

先日、永藤市長が「SMIプロジェクト」なるものを発表しました。

SMIとは、サカイ・モビリティ・イノベーションの略だそうです。ほんまに横文字が好きな市長さんです。

 

このプロジェクトを簡単に言えば、

①堺区のメインストリート大小路に自動運転バスを導入する

②堺区と美原区を繋ぐバス路線を作る

の二本柱です。

実際は、大小路交差点の改造など複数の取り組みが盛り込まれていますが、やはり目玉は「自動運転」です。②は別の機会に触れることにし、このブログでは、①の自動運転を中心に書かせてもらいます。

 

まず、結論から申しますと、私は「自動運転」技術を公共交通に取り入れていくことには大いに賛成しますが、堺市で真っ先に大小路に導入することには反対です。

長くなりますが、以下の順に書いていきます。

 

1.公共交通全体に悪影響

2.メリットに乏しい

3.市民ニーズを汲んでいない

4.自動運転を活かすには?

5.まとめ

 

1.公共交通全体に悪影響

現在この大小路には、南海バス株式会社がシャトルバスを運行しています。

 

永藤市長はこの大小路への自動運転導入について、

 

・事業者は南海バスに限らず、新規参入もありうる

・シャトルバスが黒字だから、民間の投資を得られる

・自動運転導入後は、シャトルバスはなくなる

 

という主旨の発言をしています。

 

※シャトルバスが黒字かどうかは公表されていない情報ですし、市長に民間のバス路線を廃止する権限などありませんから、南海バスさんはさぞかし不快に思われたことでしょう。

 

競争社会においては当然の発言のように聞こえるかもしれませんが、私はまずここがひっかかりました。

 

大小路のシャトルバスが実際に黒字かどうかはさておき、この路線が他の大半の路線と比べて乗降客が多いのは明らかです。

一般論ですが、全国的にもバス路線の多くは赤字です。

「一部の黒字路線が、多くの赤字路線を支えている」という実態は、少なからぬバス会社、多くの地域に共通するもので、大なり小なり、南海バスもそうであろうと思います。

一般企業であれば赤字部門は整理対象でしょうが、バス事業者がなんとか頑張って数多くの赤字路線を維持し続けているのは、『公共』交通の担い手としての責任があるからです。

 

ではどうでしょうか。

市長が言うように、このSMIプロジェクトで、「黒字だから」と大小路に新規事業者が参入し、シャトルバスが廃止されてしまったら。

 

南海バスは貴重な収入源を失い、市内の赤字路線の維持がますます困難になることでしょう。大小路の自動運転導入は堺区の話のようで、実は赤字路線が多い(であろう)中区や南区や美原区に、多大な悪影響を及ぼしかねない話なのです。

それとも市長は南海バスに、「赤字路線だけよろしく」とでも言うつもりでしょうか。あるいは、赤字路線がどうなろうと厭わないのでしょうか。

 

クリームスキミングという言葉があります。生乳から、おいしい生クリームだけを取り出すこと、要するに「おいしいとこ取り」です。規制緩和が進み、このクリームスキミングを狙う企業が少なくないわけですが、公共交通においてこのようなクリームスキミングがあってはなりませんし、ましてや行政がクリームスキミングを助長するようなことは論外です。

もし市長が「黒字だから新規参入も」と言うならば、残る赤字路線をどう支援していくのかを打ち出すべきで、それがないのはあまりに無責任です。

 

では、大小路の自動運転を南海バスにやってもらえればそれでいいかと言うと、そうでもありません。

自動運転になったからと言って採算性が上がるわけでもない(後述します)上に、多大な研究・導入費用が発生します。堺市はこのプロジェクトにおける事業者負担を「3億円」としていますが、コロナ禍で大きなダメージを受けている交通事業者には、迷惑な話でしかないでしょう。これまた間接的に、赤字路線の整理に繋がってしまうと思います。

 

それでも、この「大小路への自動運転導入」が、市民や事業者にとって大きなメリットをもたらすものならば、やればいいと思います。しかし、私にはそうとは思えないのです。

 

 

2.メリットに乏しい

堺市は、現在のシャトルバスと比較して、自動運転のメリットとして以下の3点を挙げています。

 

①Caasとの連携による利便性の向上

②二酸化炭素排出量の削減

③正着技術やスムースな加減速で安全性・快適性が向上

 

まず①です。CaasとはCity as a Serviceの略(だそう)で、様々な情報を携帯アプリなどで包括的に提供することのようですが、ハッキリ言って、自動運転でなくともできることです。少なくとも「自動運転のメリット」ではありません。

 

②は、電動バスのメリットであって、「自動運転のメリット」ではありません。シャトルバスを電動バスにすればいいだけです。

 

最後に③です。

たしかに、人間の運転士よりも、自動運転の方がピタッとバス停につけられたり、人によって運転が荒くなることもなくなります。

ただ、運転士さんがバス停にピタッとつけられないケースの多くは、運転士さんの技量不足ではなくて、バス停付近の駐車車両によるものであり、それは自動運転で解消できるものではありません。

また、急な割込みや飛び出しがあった時には、自動運転でも急停車は発生します。

 

③は多少のメリットにはなるでしょうが、果たして、先に挙げた公共交通全体の悪影響や、堺市の財政支出を凌駕するものと言えるでしょうか。

 

「いや、他にもメリットはあるでしょ!?」と思われていませんか。

 

定時制が確保できるのでは!?

→大小路のシャトルバスは今でも十分に定時制が確保できています。定時制をより向上させるなら、自動運転ではなく、バスの到着に合わせて信号を変えるなどのシステム導入が必要です。

 

運行時間が早くなるのでは!?

→むしろ遅くなる可能性もあります。自動運転はせいぜい20㎞/h程度ですし、駐車車両の多い道路では、自動運転は立ち往生のリスクがあります。(周囲の車とのアイコンタクトでの「お先!」という感じのやり取りが、自動運転にはできません)

 

運転士分の人件費が浮くのでは!?

→交通量の多い大小路では、保安員の同乗が必要となる見込みなので、ほとんど変わりません。

 

※強いてこれらのメリットを出そうとすると、自動運転バスの専用路線にする必要があり、それはそれで、周辺住民のブーイングを受けることでしょう。

 

とまあ、おおよそメリットと言えるものはほとんどありません。

それもそのはず。このプロジェクトは、市民ニーズに立脚していないからです。

 

 

3.市民ニーズを汲んでいない

「現行のシャトルバスのここが問題だ!」

という声があり、その解決に自動運転が必要ならば、やればいいでしょう。

しかし、おおよそそのような声は聞いたことがありません。

 

運転士がいることで困ることがあるでしょうか?(むしろ、とりわけ高齢者や障がい者、ベビーカーの人には安心感がある)

多くの市民・利用者は、今のシャトルバスで何も困っていないのです。

 

「東西交通で困っていること」と言えば、堺駅(南海本線)よりも西側や、堺東駅(高野線)よりも東側に接続されていないことです。

しかしその点には、今回市長が示したSMIプロジェクトでは何も手が打たれていません。(青矢印部分が自動運転導入予定路線)

前々市長が打ち出し、廃案となったLRT計画では、堺東駅~堺駅だけではなく、堺駅以西に路線が続いていました。10年越しのSMIプロジェクトではそれもなく、利便性の面では劣化しています。

 

では、堺市民はバス交通に何も不満がないのでしょうか。

いや、あります。それは大小路のようなメインストリートではなく、郊外にあるのです。

赤字路線の便数の減少です。そしてそこにこそ、自動運転を活かす道があると、私は思うのです。

 

4.自動運転を活かすには?

多くのバス会社は、赤字路線の維持に四苦八苦しています。

運転士不足もその原因です。

そこで自動運転です。

赤字路線の多くは、交通量も少なく、駐車車両も少ない郊外の道を走っています。そういう道であれば、都心の道よりもずっと安全に、自動運転で走ることができます。

保安員を載せない無人運転(Level.4)を目指すことも可能です。

わずか数人しか客が乗らない路線では、何十人も乗る路線よりも、運転士1人分の人件費のインパクトがずいぶんと大きくなります。

 

自動運転のメリットが最大限に活かせるのは、都心部ではなく、郊外・過疎地であり、現に、全国での実証実験の多くが、過疎地でなされています。また、法改正を目指す警視庁も、まずは過疎地を視野に入れいているようです。

私は堺市でも、そうあるべきだと思っています。

 

メインストリートに最新技術のバスが走れば、ワクワクする!観光客が集まる!

そう思う人もいるかもしれません。

確かにモノ珍しさで、多少の集客効果はあるかもしれませんが、それは一時のもの。すでに茨城県境町や、羽田空港では自動運転の定時運行がなされていますが、それ目当ての観光客が増えたという話など、まったく聞こえてはきません。

 

それよりも、生活する上でバスの便数が少ないという市民の切実なニーズ、路線を維持するのは経営面・運転士確保の面で難しいという事業者の切実な課題、この二つに応えることの方が、よほど行政として正しい行動だと思います。

 

5.まとめ

今回の大小路への自動運転導入は、市長(および当局)の独りよがりの計画にしか思えません。

事業者である南海バスには何の相談もなく(少なくとも計画作りにあたって意見聴取していない)、地元の住民や事業者の声を聴いた様子もありません。

 

前々市長が選挙で敗れる原因となり、前市長が具体的な対案を示せなかった東西交通は、堺市政の喉に刺さった骨のようなものです。

現市長も「公約に掲げた以上は何かを示さねば」と思ったのかもしれませんが、イメージ先行の空疎なこの案に、この地に暮らす住民として私はガッカリしています。

 

少なくとも、自動運転導入と、(このブログでは詳細は割愛しますが)同じく住民ニーズのない大小路交差点の改造については、白紙に戻して、事業者や住民との対話から再スタートしてもらいたいと思います。(同プロジェクト内のその他の取り組みについては、賛同できる取り組みが多く含まれていますから、そこは応援したいと思います)

また、先に申した堺市内の郊外の赤字路線への自動運転導入についても、今後議会で提案していきたいと思っています。

 

いずれにしても、市長は「公共交通とは何たるか」について、しっかり認識してほしいものです。

 

 

 

堺市議会議員ふちがみ猛志

意見・提案