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教育の政治的中立を侵す読書手帳

小学生の息子が学校からもらってきた読書手帳を見て、ギョッとしました。

これ↑が表紙で、問題はその中です↓。

学校からの配布物に、デカデカと政治家である永藤英機堺市長の写真が掲載されているではありませんか。

聞くと、この読書手帳は、堺市内の全小学生、中学生に配られて、一年間使われるというのです。(※5/12訂正加筆①配られているのは「全小学生」のみで、中学生は従来通りの読書ノートが引き続き配られているとのことでした。失礼しました。)

 

言うまでもなく、教育は政治的に中立でなくてはなりません

読書手帳で子どもたちに「好きな本」を紹介する1人として、セレッソ大阪の皆さんと一緒に登場しているのですが、これに永藤市長が登場する必要性は一切ありません。セレッソの皆さんだけでもこの冊子は十分に成り立ちますし、(政治家ではない)堺市の教育長が出たっていいのです。

堺市が発行する広報さかいに、その責任者たる市長が顔と名前を出すのとは、わけが違います。その広報さかいですら、選挙が近づくと、市長の顔写真の掲載を取りやめています。

堺市の全児童・生徒に配布され、子どもが一年間使用し、保護者が見ることもある読書手帳への不必要な掲載は大問題であり、そこで「なぜ、このようなことになったのか?」と教育委員会に確認しました。

 

結論から言えば、教育委員会は、

「軽率であった。チェックが甘かった。」と非を認め、「来年度に配布する分には、このようなことがないようにする(市長を掲載させない)。」と約束してくれました。

 

経緯はこうです。(説明を受け、私なりに理解した内容)

 

堺市教育委員会は、毎年読書手帳を作成し、全児童・生徒に配布してきました。(※5/12訂正加筆②堺市では「読書ノート」と呼んで配っていました)

その予算は約200万円です。

 

それが今年になって、セレッソ大阪が地域貢献の一環として、読書手帳を作ってくれるという話が舞い込みました。セレッソ大阪と堺市は協力関係にありますし、そのセレッソ大阪が全額負担してくれるというのです。しかも、すでに大阪市においても実績(1年)があるというのです。(※5/12訂正加筆③最初に話が持ち上がったのは昨年のことで、「今年になって」具体的に話が進展したようです。そこで後述している、堺市の希望する変更が通らないとの返事があったようです。)

 

読書手帳に限らず、全庁的に予算削減の圧力が強く、何を削ればいいか各局が知恵を絞っていた頃でしたから、まさに渡りに船です。

 

セレッソ大阪としては、これまでの大阪市向けに作ってきたものがあり、そこに大阪市長が登場していましたから(大阪市教委の判断も問題だと思います)、当然のように「堺市版では永藤市長に」との話があり、それを受け、わざわざ堺市教育委員会が取り次いで市長に要請したようです。何とも呑気な話です。

 

堺市教育委員会からセレッソ大阪に対しては、「子どもが本の感想を書く欄を大きくしてほしい」など、堺市教委なりの意見をしたそうですが、すでに形が出来上がっているものであり、それは通らなかったようです。また、市長を掲載することについては、堺市教委が取り次ぐくらいですから、関わった面々も、気にも留めなかったようです。

おそらく、「タダで作ってもらえるから」「善意でやってくれるのだから」ということで、あれこれ強く意見する状況・関係でもなく、その前提となるチェックも始めから甘かったのでしょう。

 

それにしても痛感したのは、堺市教育委員会の「教育の政治的中立」に対する感度の鈍さです。

 

この件が即、教育基本法に反する違法行為とまでは、私も思ってはいません(断言できません)。ただ、そもそも線引きが難しくてグレーゾーンも広いがゆえに、その判断は極めて自制的であるべきです。

繰り返しますが、まして今回の件は教育上、不必要な掲載です。主権者教育の中で政治について触れるケースとは、わけが違います。

 

また、市長(政治)の側もそうです。いや、「も」というよりは、教育基本法はじめ、この「政治的中立」が掲げられてきた歴史的経緯を考えれば、政治の側こそが、より一層自制的にならねばならないのは明らかです。

今回の件は、市長が自身のPRのためではなく、きっと善意で協力してしまったのだろうと思います。(だとすれば)その気持ちそのものは否定しませんが、結果としてダメなものはダメなのであって、たとえ要請があったのだとしても、市長は辞退すべきだったと思います。

 

本当はケーススタディとして堺市教育委員会内で共有してもらうべく、この件を議会で取り上げるつもりでおりましたが、担当者が素直に非を認め、真摯に対応し、教育委員会内で共有すると言ってくれたことを受け、それは今のところやめておくつもりです。

今回のようなことを繰り返さないのは当然のこととして、「教育の政治的中立」という理念を、教育委員会職員、そして市長はもちろん、私も含め、政治家全員が謙虚に受け止め、アンテナを高くし、自制的に判断・行動していかねばならないと思います。

 

私がこの読書手帳を見て、最初に連絡を入れた60代の職員(読書手帳の件には直接関わっていない)は、私の指摘を受けて、「ギョッとした」そうです。一方、この件に関わった40代の責任者や(おそらくそれより若い)その他の職員は、問題だと気づかなかったわけです。

これは個人差なのかもしれませんが、やはり時代と共に感度が鈍ってきてしまっているのではないかと思えてならないのです。

 

「読書手帳くらいで」と思われる方もいるかもしれませんが、しかしこれを放置すれば、ひょっとすると、今の40代の責任者も「ギョッとする」ような政治的中立を侵す行為が、20年後には、若い職員に気にもされずに許容されてしまう・・・なんて時代が来るやもしれません。

人の「慣れ」というのは恐ろしいものです。

だからこそ、私は、その都度その都度、指摘をし、警鐘を鳴らしていかねばと思っています。

 

※ご厚意で作ってくださったセレッソ大阪さんには申し訳ない話でしたが、民間企業の皆さんが気づかないのは無理もありません。ぜひ次回以降の作成の際に、ご理解を頂ければ幸いです。

 

 

堺市議会議員ふちがみ猛志

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