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生きている図書館 ゆいの森

東京都荒川区の図書館「ゆいの森」に視察に行ってきました。

 

この図書館、訪問するのは9月に続いて2度目です。

以前、ここを視察した木畑議員から「よかった」と聞いていたので、9月に別件で東京に行った際の空き時間に、少し立ち寄って、1人でぐるりとまわってみたのですが、それは実に素晴らしく「ぜひスタッフの方から説明を聞きたい!」と思ったのです。そしてこの度、東京視察の3件のうちの1つとして、ここを再訪したのでした。

 

これまでに私はいくつもの魅力的な図書館を視察しました。どこも甲乙つけがたい、それぞれの魅力がありましたが、「ゆいの森」はその中でも特筆すべき、私のお気に入り図書館となりました。

 

私が、「ゆいの森」をひとことで評するならば、「生きている図書館」です。

 (他の図書館が「死んでる」ってわけではないですよ。他と比べてではなく、この図書館を訪れて、素直に感じることがそうなんです)

 

ここでは、司書さん(をはじめとするスタッフ)がその力とアイデアを存分に発揮されていて、そのための空間、予算、人的資源も十分に用意されています(と私は感じます)。

そして、図書館が「生き生き」とし、私たちを自然と読書へと誘うのです。

 

私がそう感じた部分を、もう少し具体的に記します。

 

■毎月変わるエントランス

広々としたエントランスには、スペースを贅沢に使いながら、いくつかのオシャレな書架が置かれ、そこが司書さんが作る、月替わりの特集コーナーになっています。今月は「自然の恵み」特集で、お米や農業、草木染や、環境に関するような本が並んでおり、つい手に取りたくなってしまいます。ちなみに一度目の訪問の際は「沖縄」特集で、観光ガイドから、沖縄の歴史の本などがありました。

 なお、こうした「司書さんの力とアイデアを発揮できる空間」が、各所に散りばめられていて、子どものコーナーにもご覧の通りの書架がありました。

 「子どもの権利宣言」、子どもにこそ知ってほしいですよね。

 

子どもの成長に合わせた、繋がる配置

「ゆいの森」の一階には、かなりのスペースを使って、子どもの「遊びラウンジ」が設けられています。

して、そこから繋がるように絵本コーナーがあります。遊びラウンジに来た子が本に、あるいは本を読みに来た子が飽きて遊びラウンジにと、行き来しやすくなっています。また、絵本コーナーも、堺市のように「本のタイトルのあいうえお順」ではなく、乳児向け→幼児向け→小学生向けという風に、子どもの成長に合わせて書架が配置されていて、自分に合った絵本を探しやすくなっています。

 

■充実したティーンズコーナー

10代の子ども(ティーンズ)を対象としたコーナーが、どれほど充実しているかが、図書館の良しあしを決める重要なポイントだと、最近私は思うようになりました。

堺市の中央図書館は、子ども室と一般室に大別されていて、ティーンズコーナーはありません。私の子どもは読書好きでもうすぐ10歳で、彼女が好むライトノベルなどは子ども室に置かれていますが、その子ども室の読書スペースはというと、赤ちゃんと同じカーペットです。それでは、ティーンズの落ち着く居場所にはなりにくいのです。10代は図書離れも進む年代です。ここでしっかりと読書につなぎ留められたならば、10~20代も通う全世代型の、活気のある図書館になるのだと思います。

「ゆいの森」のティーンズコーナーは、広いというだけではなく、他人の目を気にしがちな思春期のために、あえて死角を作った書架や、一緒に調べものができる机、中学生が作ったおすすめ本コーナーなど、様々な工夫がなされていました。

 また、図書館通帳など、子どもの読書における達成感を満たす取り組みもありました。

 

本に誘う遊びごころ

面白かったのが、体験キットの貸し出しです
様々な理科の実験など、子どもの学び&遊びを両立させたキットが貸し出され、小中学生の居場所でもある「学びラウンジ」で使うことができます。貸し出し件数は、なんと年間1万件にもなるそうです。

また、理科の実験によって不思議に思ったことを、すぐ調べられるように、関連する本が「学びラウンジ」には揃っています。遊びから読書へ、素晴らしい繋がりです。

 

■図書館の一部であるカフェとイベントホール

最近では、新しい図書館には当たり前のようにカフェが併設されるようになりました。また、イベントホールが併設された図書館もたくさんあります。ゆいの森でもそれらは設置されていますが、ここでは「図書館の一部」としての工夫がなされ、一体感を保っています。

カフェへの本の持ち込みは当たり前。持ち込んだ本を、その場で置いていける返却ボックスも用意されています。カフェとの間の壁もほとんどない上、カフェの中に小さな書架と、司書さんが作るコーナーも設けられています。

イベントホールは、普段は図書エリアとの壁がなく(移動式の壁)、読書用のイスとして利用できます。また、いらなくなった絵本を壁一面に配置して、デザインにしてしまっています。こんなイベントホールで、本に関するイベントをしたら、きっと盛り上がることでしょう。

 

著名人との繋がりを活かしたコーナー
荒川区出身の作家・吉村昭さんの記念文学館が設置され、ご本人の書斎が遺族の協力のもとに再現されています。実際に書斎にあった現物を持ち込んでいるそうです。ファンには堪らないでしょうね。

また、妻の津村節子さんの出身地である福井県と、「おしどり文学館」と称しての合同企画もありました。堺でもしこのアイデアを頂くなら、与謝野晶子・鉄幹夫妻でしょうね。

 荒川区は「奥の細道」の出発の地でもあるらしく、「俳句のまち」として売り出し中とのこと。俳句に関連した書架もありました。これを堺が真似るなら、当然「短歌」ですね。

絵本コーナーには「柳田邦男絵本館」がありました。柳田邦男さんの作品はもちろん、同氏が選ぶ、おすすめの絵本が並んでいます。

 

堺市の中央図書館にも、与謝野晶子、河井酔名らに関するコーナーがありますが、どうも書架が生き生きとしていないんですよね。見せ方って大事ですよね。

 

司書だけではない専門スタッフ

図書館にいる専門職と言えば、当然「司書」ですが、ゆいの森では司書以外の専門職の方々も活躍しています。

1つは学芸員。先に紹介した吉村昭記念文学館を担当されており、常設展だけでなく、企画展も行って、ファンが何度も訪れるようになっています。

さらには保育士。遊びラウンジに配置され、そこにやってくる保護者の子育て相談に応じています。「応じる」と言っても、相談を待つのではなく、保育士の側から声掛けをして、悩みを引き出し、必要に応じて行政サービスに繋げているようです。

そして教員。体験キットのコーナーに配置され、子どもの学び体験をサポートします。私が伺った時は、美術の教員免許を持つ方が活動されていました。

こうした方々が、それぞれの持ち場で活躍し、個性溢れる「ゆいの森」を作り上げています。司書を含め、こうした方々を区が直接雇用しています。

 

 

その他、読書スペースが充実していてコンセントも使えるとか、読書スペースも静寂なところから飲食できる場所まで多様だとか、自習室も広いとか、屋上テラスが素敵だとか、館内が吹き抜けで解放感があるとか、挙げればキリがありません。

 

堺市の中央図書館の建て替えの議論が進んでいます。ぜひその中で、こうした先進的で魅力的な図書館のアイデアを、どんどん取り入れていってもらいたいものです。

 

堺市議会議員ふちがみ猛志

意見・提案