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堺市の財政をどう見るか③固定経費編

「堺市の財政をどう見るのか」4回シリーズの第3回「固定経費編」です。

①貯金(基金)編

②借金(市債)編

③固定経費編

④来年度予算編

の4回にわけてお届けしています。

 

③固定経費編

【堺市財政の大きな課題】

固定経費の増大。堺市の財政の課題は、これに尽きると言っていいと私は思っています。

 

収入に対する固定経費(支出)の割合を、経常収支比率と言います。

この数値が、堺市は令和元年度決算で100を超え、100.7となってしまいました。

おそらく、コロナ禍を受け、令和2年度決算はさらに悪化することでしょう。

 

簡単に家庭に喩えると、給与収入は月々の衣食住や学費で使い切ってしまっている状態です。旅行したり、その年その年の特別の支出をしようと思えば、資産を売却したり、特別な収入を得ねばなりません。

人並みに貯金があり(普通預金は少ないが、定期預金が多めにある)、住宅ローンなどの借金が非常に少ない家庭だったとしても、月々の固定経費でカツカツならば、その点は改善していかないと、突然の出費(自然災害等)に対応できませんし、やがて貯金の食いつぶしにも繋がっていきます(まさに堺市がそのような状態です)。

 

永藤市長もこの点は会見で厳しく指摘しており、そこは私も同感です。

 

【経常収支比率悪化はハコモノによる?】

ただ、私が違和感を覚えるのは、市長や前市政に批判的な議員が、この悪化の原因として「ハコモノ」を強調する点です。

第2回借金編で書きましたが、「ハコモノ建設費」は、市債(借金)に関連した数値に表れます。そして、たしかに市債は増えています。来年度は公債費(借金の返済額)が7億円増えるそうです。

ただし、実質公債費率は上がっていないのです。

「収入に対する借金返済額(実質公債費比率)が増えていない」にもかかわらず、「収入に対する固定経費の割合(経常収支比率)が増えた」ことを、「借金返済額の増加」のせいだするのは、論理的に成り立ちません。

もちろん、「実質公債費比率をもっと下げてくれていれば、他の悪化要因をカバーできた・・」という愚痴のようなものは、あっても不思議ではありませんが・・。

 

では、なぜ経常収支比率が増えて(悪化して)しまったのでしょうか?

 

【悪化の主要因は住民サービスの向上】

悪化の主要因は、ハコモノではなく、子育て支援を中心とした住民サービスの向上です。

(あとは、少子高齢化ですが、社会的要因なので割愛します)

 

前市政で実施した住民サービスの向上を少し列挙するだけでも、

子ども医療費助成 約30億円

保育料の無償化 約20億円

おでかけ応援バス 約5億円・・・・

等々、細かいものを挙げればもっとあります。無償化は国が乗り出して上記のようになりましたが、市単独でやっていた時は、もっと多額の支出でした。

 

これらに対して、永藤市長が記者会見で指摘した4つのハコモノ(?)を挙げると、フェニーチェ157億円、利晶の杜34億円、原池公園野球場57億円、原山公園プール36億円となりまして、、

合計281億円!ハコモノの方が高いやんけ!!

 

・・いやいや、違います。

ハコモノ建設費は大半を借金で賄い、基本的に30年で返していきます。

この4つのハコモノで281億円、年間の負担はおおよそ約9億円です。(正確に言えば、フェニーチェは20年償還の合併特例債を使っており、年払いの額は多くなりますが、70%を交付税措置されてさらに有利です)

 

ですから、毎年毎年出費のある住民サービスと、30年分割払いのハコモノ建設費を比較するならば、前者は30倍して比較するべきで、

こども医療費助成 約900億円!!!

という話になり、いかに「住民サービスの向上」が大きな規模のものであるか、ご理解頂けると思います。

 

なお、4つのハコモノにはそれぞれ指定管理料がかかり、それは毎年の負担です。これらを合計します、おおよそ年間6億円です(フェニーチェは旧市民会館、原山公園プールは泉ヶ丘プールとの差額より算出)。

これ自体は、経常収支比率の悪化の要因と言えると思います。

ただ、子育て支援などと比べ、規模感が違うのはお分かり頂けるはずです。

 

悪化の主要因は「住民サービスの向上」です。

ただ、そのように言えば「サービスが向上したんやったらええやん」と思う人も多いでしょうし、だからこそ、主要因とは言えないにもかかわらず、市民が嫌悪感を示しやすい「ハコモノ」という言葉を持ち出して批判されている方がいるのだろうと思います。

 

【住民サービスの向上はやりすぎたのか】

では、前市政による住民サービス向上はやりすぎだったのでしょうか?

さすがに前市政も、経常収支比率100%オーバーをヨシとしていたわけではないでしょうから、一定の見込み違いがあったのは間違いないでしょう。私も「強気すぎたのでは」と思いますし、それは接戦だった2017年の市長選挙の影響も否めません(強気に公約を打った)。「甘かった」という批判も十分に理解できます。

 

ただ、「住民サービスの向上自体が間違いだった」と全否定するのも早計だと思っています。

子育て支援は単なる出費ではなく、将来的な少子化対策・人口誘導・定住促進、それらによる税源確保に繋がりうるからです。

いわば、将来に対する投資ですから、(悪化の程度について見解は様々でしょうが)一時的な悪化そのものは当然起こることであって、しばし人口動態を見ない限り、判断は難しいものと思います。

※同様に高齢者のおでかけ応援も、高齢者の健康と医療・介護費の抑制に繋がりうるのです。

 

【ここからは定性的な話】

経常収支比率100%超えをポジティブに捉える人は誰もいないでしょうが、かといって、どの程度深刻に捉えるかには差異があります(定性的な話ですが)。

例えば、同じ政令市でも川崎市は今も100%を超えていますし、相模原も100を超えたり下回ったりです。

大阪府は橋下知事誕生直後の平成20年が96.6%でしたが、平成28~30年度には3年連続で100%超えです。その時の大阪府は、今の堺市のような大騒ぎをしてましたかね??しかも、借金に関する指標は堺市よりはるかに悪いのに。(ちなみにピークは平成10年が117.4%!ですから、10年で20%下げたという、横山ノック知事から太田知事時代にかけての財政再建はかなり厳しかったと言えるでしょう。)

それも「だから悪い」という話ではなく、100%超えだけに過剰反応せず、市債・府債、基金、税収などと総合的に判断すべきなのです。改善すべきものには間違いありませんが、「100%超えたら破綻危機!」みたいな話では決してないということです。

 

また、低ければ低いほどいいというわけでもないと、私は思っています。

東京などは80以下なのですが、それは住民サービスを向上させる余力を『残している』ということであって、さすがに低く抑えすぎだと私は思います。

「いくらなら」とはハッキリ言えませんが、私がこの件で思うのは、

「行政の仕事は貯金をすることではない」

「市民に対して適切かつ安定的に住民サービスで返すことが大事」

ということです。

当然、危機への備え、将来の社会の縮小に対する備えは大事ですが、傷口を広げないための投資も大事です。

・・・と、この話をこれ以上続けると、交付税制度や、国の財政の話にも及びエンドレスなので、この辺で終わります。

 

【固定経費編 まとめ】

1)経常収支比率100%超えは大きな課題であり、批判も当然である

2)その主要因はハコモノではなく住民サービスの向上である

3)住民サービス向上そのものの最終評価は人口動態にもよる

4)100%超えに過剰反応せず、行政の役割を守りつつ改善していくべき

 

長くなりましたね。

いよいよ次が最終回。これから大変なことになる「来年度予算」についてです。

 

 

堺市議会議員ふちがみ猛志

 

次は、④来年度予算編 へ

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