子どもの留守番禁止条例と地方議会の恐ろしさ
こんにちは。堺市議会議員(堺区)のふちがみ猛志です。
埼玉県議会で提案された、いわゆる「子どもの留守番禁止条例」が話題となりました。
※首都圏ナビより
その後、この条例案は世間の批判を受けて取り下げられるに至りましたが、今日はそのことについて思うところを綴りたいと思います。
私も報道で知りえた範囲の情報と、そこからの感想です。その点はご承知置きください。
子どもの留守番禁止条例とは
小学3年生に1人で留守番をさせたら虐待。
買い物や回覧板をまわす程度の短時間でも虐待。
1~3年生だけで登校しても虐待。
1~3年生だけで公園で遊ばせても虐待。
こう聞いて、「そうだ!虐待だ!」と思う人はほとんどいないでしょうね。
多くの子育て世代の日常の中で、大なり小なりやっていることでしょうから。
※虐待の例示(ネットニュースより)
それを虐待だとし、しかもそれを知った人に通報義務まで課すというのです。
このほど埼玉県議会で可決成立しそうになった虐待禁止条例の改正案、いわゆる「子どもの留守番禁止条例」です。提案したのは、最大会派の自民党でした。
罰則規定はないものの、あまりに非現実的で、あまりに子育て世帯、とりわけ共働き世帯やシングル家庭の生活に深刻な影響を与えるとんでもない条例だとして、全国から厳しい批判が殺到し、メディアでも盛んに取り上げられました。
そして、その批判に耐えきれなくなったのでしょう。
提案会派の自民党は、その条例案を取り下げることとなり、埼玉の子育て世帯の皆さんは、ひとまずはその難を逃れることとなったわけですが・・・。
※経緯をご存知ない方はこちら(NHKニュース)をご覧ください↓↓↓
https://www.nhk.or.jp/shutoken/saitama/article/016/36/
なぜこんな条例案が提案に至ったのか
この一連の騒動を見ていて思うことが山ほどあります。
まず、そもそもなぜこんな非常識な条例案が作られたのか。
それは「作った人が非常識だから」ということに尽きるのだと思いますし、そんな非常識な人は政治家の中にも少なからず紛れ込んでいます。(だからこそ、民主主義というチェック機能が必要なのです)
実際に起案した人物が誰かは存じませんが、責任者として報道にも出ていた自民党の議員団の代表者は、(少なくとも子育てに関しては)そんな非常識な人物なのでしょう。
取り下げに至ってなお、「説明不足」を原因にしており、条例案の非常識さや、子育ての現状への自身の不見識に気づいてすらおらず、もはや「付ける薬がない」レベルです。
※東京新聞ネットニュースより
ただ、それ以上に気になるのが「なぜ『提案』に至ったのか」、「58人の自民党議員団で止める人はいなかったのか」ということです。
報道では「議員団で女性が3人しかいない」ということが指摘されていましたが、3人もいればおかしさに気づく人が1人くらいいたでしょうし、女性でなくとも、多少なりとも子育てをしていれば、いや、自身が子育てをせずとも、有権者と普通にコミュニケーションを取っていれば、おかしさに気づいたっていいはずです。
この58人の埼玉県議会の自民党議員団は、「非常識議員の集まり」なのか、あるいは「団の中に民主主義が存在しない」のか、そのどちらかでしょう。(きっと後者かな(個人的感想))
県議会他会派は何をしていたのか
問題だったのは自民党だけでしょうか。
このトンデモ条例案が県議会の福祉保健医療委員会で、賛成多数で可決したのは、提案会派の自民に加え、公明も賛成をしてのことでした。
※朝日新聞ネットニュースより
私は公明という政党は、他党に比べ世論に敏感な政党だと思っています。また、子育てや福祉には熱心な政党だとも思っています。
その公明がこんな条例案に賛成するの!?というのが私の素直な驚きでした。
国政で連立政権を組む自民に配慮して、目をつむったということでしょうか。もしそうなら、そこに市民生活に直結する地方議会の矜持があったのでしょうか。
そして私は、このトンデモ条例案に反対した政党にも思うことがあります。
この条例案は委員会での可決を経て、一気にメディアを賑わせるものとなり、そして世論が沸騰し、撤回に追い込まれたわけですが・・・、それまで反対会派は何をしていたんでしょうか?
反対会派は、委員会で盛んに反対の質疑をしてはいました。
もちろんそれは当然かつ最低限の仕事なんですが、同委員会の委員10人中5人が提案会派の自民議員で、さらに委員長が自民です。仮に公明が反対にまわっていても、「賛否同数で委員長判断により可決」だったのです。つまり、いくら質問したとて可決は既定路線だったのです。
なので、このトンデモ条例案が提案された時点で、「議会内の数の力では止められない」ことは明らかであり、止めるためにはマスコミも含めた世論対策が必要だったのです。
しかし、マスコミやSNSで騒ぎが大きくなったのは委員会可決後であり、私が知る限り、遡って調べた限りではありますが、委員会までに世論に訴えるような動きは見受けられませんでした。
委員会での可決後から本会議までの短い期間で世論が沸き、阻止できたのは結果オーライでしたが、果たして反対会派に「なんとしてでも阻止する」という気概はあったのでしょうか。
これは、私の大きな疑問です。
地方議会も生活に影響を及ぼせる
今回の騒動で市民が突き付けられたのは、「地方議会と言えど、生活に影響を及ぼせる」ということです。
※埼玉県議会ホームページより
そんなことはこの騒動によらずとも当たり前なのですが、「地方議会なんて自分には関係のない」と思っている市民は少なくありません。
どうでしょう。議会では可決寸前だったこの「子どもの留守番禁止条例」は?
もし可決成立していれば、あなたの日常の子育てが「虐待扱い」されたり、あるいはこれまで微笑ましく眺めていた「(よその)子どもが子どもだけで公園で遊ぶ姿」を、虐待として通報したりしなければならなかったのです。
また自民党の状況からもおおよそ察しがつくように、「非常識な議員が議会の過半数」にならずとも、「非常識な議員が議会の最大会派の枢要な地位に就く」だけで、その事態は起こりうるのです。
たしか田中角栄元総理だったと記憶していますが(間違っていたらゴメンナサイ)、「世論の過半数の支持を得る必要はない。与党の中の、その最大派閥を抑えられたら、やりたいことがやれる」という主旨の言葉を見聞きしたことがあります。世論から支持を得られないようなものでも、議会内の政治力学で押し通せるということでしょう。
埼玉県議会でまさにそのようなことが起こっていたわけですね。
条例案を現に作った議員。
それを提案した自民党の58人の議員。
委員会で賛成した公明の議員。
阻止するための積極的な行動をとらなかった議員。
埼玉県民の皆さんは、ご自身が投票した人や応援している人がどうだったのか、ぜひご確認頂きたいと思います。
そしてもし、その行動が「おかしい」と思うものなったならば、迷わずにその議員にそれを指摘し、糾弾するべきだろうと思います。
有権者が「おかしいものは、おかしい」と直接指摘する。
それが政治家の非常識な行動を抑止し、政治家を鍛えていく大事なプロセスなのです。
私にもある苦い経験
そういう私も、過去にある採決行動によって、支援者に糾弾されたことがあります。
すごく悩み、当時の政治情勢や、会派内の意見を総合的に勘案した上での、苦渋の決断・採決だったのですが、「あれはおかしい」と何人もの支援者に厳しく指摘をされ、説明の場を設けざるを得なくなったのです。
不本意だったとはいえ、今でも「やむを得ない判断だった」と思ってもいますが(自分に言い聞かせているのかもしれませんが)、少なからぬ支援者を落胆させ、厳しいお叱りを頂いたことは、私にとって大変苦い経験でした。
しかし、その糾弾の場は政治家としての私の成長の糧ともなりました。
民主主義とは何ぞや、地方議会とは何ぞや、と考え直す機会となりました。
多くの人が「政治の非常識」を感じたであろう今回の騒動を機に、ぜひ身近な政治家により厳しい目を向けて頂けたらと思います。
私も、市民の皆さんから常に向けられる(向けてほしい!)厳しい目に応えられるよう、益々頑張って活動する所存です。何かあれば、遠慮なく指摘してくださいね!
堺市議会議員ふちがみ猛志
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