NOWLOADING

札幌市に学ぶ図書館のあり方

こんにちは。堺市議会議員(堺区)のふちがみ猛志です。

 

かねてより評判を耳にしていた札幌市の中央図書館と、図書・情報館を会派の仲間で視察してきました。

図書・情報館は市役所のすぐそば、都心部に設置された分館です。

 

私はかねてより、堺市の中央図書館の建て替えと、堺区図書館の設置を訴えてきました。その議論の参考にと行ってきたわけですが、いやはや、素晴らしい図書館でした。

 

私が感じたこと、堺に取り入れたいと思ったことなどなどを書かせてもらいます。

 

図書館が本を貸さない?

都心部に設置された図書・情報館に行って、最初に驚いたのが「本を貸さない」ということです。

 

えーーー!図書館が!?本を貸さないの!?

って感じですよね。

 

正確に申し上げると、「『図書・情報館にある本は』貸し出さない、館内読書に限定」ということです。

他の図書館から予約で取り寄せた本は、専用カウンターで借りたり返したりが可能ですし、札幌市の他の図書館では通常通りに貸し出ししています。

 

では、なぜ図書・情報館は「館内読書に限定」しているのでしょう。以下のようなメリットがあるようです。

 

1.最新、人気の本も置きやすく、常に館内にある状態にできる

貸し出ししていたら、最新の人気の本は出ずっぱりの予約の列ですよね。よりたくさんの人に読んでもらえます。(→近隣の書店での購入につながるかもしれない(渕上の予想))

 

2.利用者が頻繁に通うことや長時間滞在することにつながる

「借りて家で読む」のができないのなら、そこで読む(か書店が買うか)しかないですよね。当然それに見合った快適な滞在環境が作られています。(→近隣での食事など、経済波及効果大でしょう(〃))

 

3.貸し出しに要した労力をレファレンスや選書に集中できる

貸し出しは予約のみなので、委託事業者による小さなカウンターだけ。そこから解放された司書さんの工夫が随所に見受けられました。(後述します!)

 

私は、堺に「本を貸さない図書館」を作りたいわけではありません。少なくとも、私が盛んに議論している中央図書館、堺区図書館には馴染みません。

ただ、何でもかんでもそろっているフルスペックの図書館ではなく、機能を取捨選択することで魅力的、かつ特長のある図書館にできるものだと実感したところです。

 

機能分館という考え方

図書・情報館が取捨選択したのは「貸し出し」だけではありません。

私がもう一つ感心したのが、「機能分館」という考え方です。

 

堺市には中央図書館以外にいくつもの図書館がありますが、それらは基本的に「地域分館」で、A図書館がカバーできない「地域」にB図書館を作るという発想です。

 

もちろん札幌市にも「地域分館」はありますが、この図書・情報館は機能によって分けられた図書館です。具体的には、図書・情報館はWORK、LIFE、ARTの三つにテーマを絞り、このテーマから外れる本は置いていません。たとえば、小説や絵本などです。

蔵書のテーマを取捨選択することで、テーマに即した蔵書を集中的に充実させることができます。

この図書・情報館の他に、絵本に特化した「えほん図書館」もあります。

 

薄くて広いラインナップで、どの図書館に行っても同じ本が置いてある・・。という状態より、よほど魅力的ではないでしょうか。

 

小さな工夫が盛りだくさん

①十進分類によらない書架

ほとんどの図書館が全国共通の十進分類で図書を管理しています。でも、これってなんだかわかりにくくないですか?

※岡山県立図書館HPより一部抜粋

 

図書・情報館は、まずはWORK・LIFE・ARTに分類し、その下はこんな風に司書さんの発想で分類しています。

「こどものハンディキャップ」「出会いのかたち」「恋愛」などなど。なんとなく読みたくなりますし、知らなかった本にも出会えそうな気がしますよね。

 

ちなみに中央図書館はさすがに「十進分類」を採用していましたが、それでも表記が非常に細かく、利用者目線で探しやすさを追求する姿勢が見て取れました。

※「社会科学」の書架に「児童虐待」「LGBT」「貧困」「反社会的集団」などなど。

 

②特出しコーナー

書架のあちこちに赤枠で囲まれた、タイムリーな話題を提供する特出しコーナーが設けられています。たとえば、

「先生、定時で帰れますか?」や、「創作と生成AI」、「セカンドキャリア 次のステージへ」などなど。最初のなんて、ちょっとドキっとしますよね。

図書館の出入口など目立つところ1、2か所・・というのはよく見かけますが、こんなに多いのは初めて見た気がします。まさに、司書さんの力の見せどころです。

 

③多様な座席と簡単な予約システム

パソコンができる席、音の鳴る新聞もダメな静かな読書席、わいわいグループで作業ができる席、ミーティングルーム、普通の読書席(自由席)などが用意されていて、タッチパネルで簡単に席を取ることができます。

飲食OK、飲み物だけOKの席もあります。階下には本を持ち込めるカフェもあります。周りを気にせず電話ができるブースもありました。実にうらやましい滞在空間でした。

 

④商工会議所とのコラボ窓口

WORKを主テーマに掲げた図書館だけあって、起業家支援が充実しており、中小企業診断士や、社会保険労務士、税理士等による「よろず支援窓口」が設置されています。

それも役所が設置しているのではなく、商工会議所の窓口を「図書館にも置く」形にしており、相談員の人件費や委託費等の予算は発生していません。

 

商工会議所としても、図書館だと敷居が低くなり、利用者が増えるそうです。利用者としても、そのまま関連する本を読んだり、調べものができたりします。Win-Win-Winですね。

 

⑤返却台による分析

読んだ本は書架に戻さずに、返却台に置くルールになっています。

単に置くだけ?いや、ここに一つの仕掛けがあるのです。本にはICタグがつけられていて、返却台にはそれを読み込むリーダーが台の下に仕込まれています。

 

どんな本がよく読まれているのか、それを定量的に把握し、選書に活かしているそうです。すごいですね。

 

このほかにも、こんな工夫や仕掛けが盛りだくさんの図書・情報館でした。百聞は一見に如かず。堺市の職員さんにも視察に行ってほしいなあ・・と思いました。

 

こんなところにタッチポイント

「ぜひ、いますぐ堺市で!」と思ったのがこれです。

 

「日本で暮らす」というテーマの書架に、「外国人住民のみなさんへ」と書かれたサインのもと、防災、医療、総合相談の3つの外国人住民向けの名刺サイズの多言語パンフレットを置いていたのです。

この書架は、外国人住民や、彼らにつながりのある日本人が集まりやすい場所ですよね。その場所を外国人住民への行政情報の提供の場として、図書館以外の部署が活用しているのです。素晴らしいタッチポイントの事例です。

 

※「タッチポイントって何?」という方はこちらのブログをご参照ください。↓

https://fuchigami.info/%e3%81%93%e3%82%8c%e3%81%9e%e3%82%bf%e3%83%83%e3%83%81%e3%83%9d%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%83%88%e3%81%ae%e5%a5%bd%e4%be%8b/

 

この件については、早速堺市の国際課に提案し、「図書館と調整します」とお返事をもらいました。

 

こう考えると、外国人市民に限らず、図書館には「何か目的を持った人」が集まりやすいので、その属性に応じて、行政情報の提供のタッチポイントとしてもっと活用できそうです。

 

堺区図書館ならばどうなるか

これらを踏まえ、堺の図書館でどう活かすのか。先ほどの「タッチポイント」や「小さな工夫」は、できるものからどんどん取り入れてもらいたいものです。

 

そして私は区の図書館に、ぜひ「機能分館」の発想を取りいれてほしいと思っています。

さすがに「地域分館」の役割を捨てることは難しいでしょうから、せめて「●●について充実している図書館」という特色くらいは出してほしいものです。

 

たとえばですが、高齢化が一番進み、近畿大学医学部と附属病院が移転してくる南区図書館は「健康・医療」が得意分野。公立大学があり、産業振興の拠点のある北区は「起業家支援」が得意分野。などなどがあってもいいと思います。

 

私が求める堺区図書館ならば…、やはり歴史と観光でしょうかね。

そこから街歩きを始めたくなるような、そんな図書館に出来たらいいですね。

そういえば、私が「堺区図書館に」と求めている堺消防署跡地は西高野街道の出発点でもあり、先人はここから高野山を目指したそうです。歴史的にもピッタリの場所です。

 

どんな図書館にしたいのか、誰にできるのか

この図書・情報館を見て、つくづく「司書さんの力」を感じました。

司書さんのアイデアこそがこの館の魅力を作っているのでしょう。

 

質疑応答の中で印象的だったものがあります。

この図書・情報館は札幌市の直営ですが、昨今、このような都心部に設置された新しい図書館では、指定管理者制度が導入されていることが少なくありません。そこで私は「検討しなかったのか?」と訊きました。

 

答えは、「していない。なぜなら、レファレンス機能を重視したコンセプトの図書館にしたかったから」とのことでした。

 

現に同館は『はたらくをらくにする』をコンセプトにし、WORK、LIFE、ARTにおける課題解決の窓口にもなっています。

 

そして、「優秀な司書さんを、それに応じた待遇で雇用するためには、直営が望ましい」ともおっしゃっていました。

 

「こんな図書館にしたい」。

だから、「こんな人たちの力が必要」。

だから、「こんな運営形態に」。

 

というのが正しい思考の順序であって、堺市議会では「どんな図書館にしたいのか」の議論をすっ飛ばして、「民間活力で魅力的な図書館に」というような抽象的な指定管理者制度推進の主張が見受けられます。

 

建て替えが期待される中央図書館、新設を求めてきた堺区図書館。

 

ぜひ私はたくさんの事例をもとに、「どんな?」から丁寧に議論したいと思っています。

 

その結果として、堺市教育委員会と市長部局が、「貸し出しもやっている本屋」「コストを最小限に抑えた図書館」なんてものをコンセプトに掲げるのならば(かつそれを市民が望むのならば)、指定管理者制度が望ましいのかもしれませんね。

 

 

堺市議会議員ふちがみ猛志

LINE登録はこちらからも↓↓↓

https://lin.ee/YdOYWqu

意見・提案