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市長の名前すら知らない候補者

こんにちは。堺市議会議員(堺区)のふちがみ猛志です。

 

地方議会議員選挙において、せっかく選挙で当選したのに、その後に「居住していなかった」ことが判明し、当選無効になるケースがあります。

私の知る限り、そのようなケースが多い政党が日本維新の会です。

 

先日も、同党所属の埼玉県議会議員、龍ヶ崎市議会議員に、立て続けに当選無効の判断が下されました。

https://mainichi.jp/articles/20230713/k00/00m/010/387000c

※埼玉県議会議員の当選無効を報じる毎日新聞ニュースより

 

そうした事態を受け、維新の会が提案したのが、地方議員の立候補において居住要件を撤廃する公職選挙法の改正案です。

 

この議論は、「地方議員の存在をどう捉えるか」に深く関わるものなので、私もここでブログに書かせてもらいます。

 

公職選挙法の規定と判例

私たち地方議員は、その自治体に3ヶ月以上居住していないと、立候補することができません

このことは公職選挙法9条に規定されています。

また、昭和32年の最高裁の判例で「その者の住所とする意思だけでは足りず客観的に生活の本拠たる実体を必要とする」と示されており、つまりは「単に住民票がある」というだけではダメで、「ちゃんと住んでいる」状況でないと立候補できないのです。(そもそも住民票を移すのも、「ちゃんと住んでいないとダメ」なんですがね)

 

そのため、立候補届は戸籍謄本や住民票による確認で受理されるものの、その後に「実は住んでいなかった」ということが発覚し、「そもそも立候補する資格がなかった」ということで当選が取り消しになってしまうケースが少なからず発生しています。

 

違反が続いたから法改正ってどうよ

先に述べた埼玉県議会、龍ヶ崎市議会議員以外にも、維新公認の当選者が「居住実態なし」で当選無効になる事例や、市民から異議申し立てされる事例が過去に発生しています。

 

こうした事態を受けて、維新の会はこのほど、地方選の立候補における居住要件を撤廃する公職選挙法改正案を提出しました。

https://www.asahi.com/sp/articles/ASRC76D5VRC7UTFK015.html

※朝日新聞ニュース

 

うーーーん。これってどうなんでしょう?

 

幾たびも違反してきた人が、その行為を「違反じゃなくなるようにしよう!」と提案しているのです。

ゴールポストを動かす?いやいや、ゴールポストを反対に向けるような行為です。

せめて今ある法律をちゃんと守ってからにしなさいよ、と思うのは私だけでしょうか。

「盗人猛々しい」という言葉がぴったりです。

 

居住要件がなぜ必要か

とはいえ、この居住要件が不当なものであれば、改正の提案もアリでしょう。しかし、私はこの居住要件は当然であり、極めて重要なものだと思っています。(ですから、撤廃の提案など論外だと思っています)

 

「住んで初めてそのまちの課題にも気づくもの」

とよく言われるし、私もそう思います。住んでもいないのに何がわかるの?と。

日々起こる地域の課題の機微に向き合うこともできないでしょう。

 

ただ、それ以上に重要な理由があると思っています。

 

それは、「それが自治だから、市民・住民の権利だから」です。

「自ら治める」と書いて「自治」です。

「『住民自ら』が住民の代表者となれる、代表者を選べる」。これは民主主義における根源的な権利です。

 

そういうと「首長は?」と思う方もいると思います。首長には居住要件は課せられていません。他市の市民でも、市長になれるんですね。

 

私はむしろ、首長にも居住要件を課すべきだと思っています。

ただし、百歩譲って首長に求めなくとも、議員には求められるべきなんです。なぜなら、自治体の最終意思決定者は、首長ではなく、議会(議員)だからです。

 

最終の意思決定は、自分たちで。それが民主主義の大前提です。

 

国政に当てはめればすぐにわかる

この居住実態の件は、国政に当てはめればすぐにわかってもらえると思います。

 

国会議員に立候補できるのは、国籍のある人だけです。

外国人が日本国籍を取ることは可能ですが、そのためには5年以上の居住が求められます

もしも、国籍を取得し、立候補し、当選した元外国人が、あとから「実は日本に居住したことがなかった」と発覚したらどうなるでしょうか・・?

国籍取得そのものに疑義が生じ、少なくとも立候補自体が不正だったとされ、当選無効となる可能性は高いだろうと思います(そのような事例はこれまでにないと思いますが)

 

この例の「国籍」を「住民票」に、「外国人」を「他市の市民」に、「日本」を「市内」に置き換えてもらえたら、多くの方に理解してもらえるのではないでしょうか。

 

国政における被選挙権が国民の固有の権利であるのと同じで、

市政における被選挙権は市民の固有の権利です。

 

その権利を他市の市民(※)に開放しようという維新の提案を、私は全く理解できません。

 

(※)居住実態がないのに住民票だけを移すことは、本来できません。よって、「居住要件」というより、「名実ともに市民であることを要件とする」と言い換えた方がいかもしれません。

 

私が出くわした維新候補の実例

私は以前、維新の会から立候補しようとしている若者Aさんから、共通の知人を通じて相談を受けたことがあります。(本人が特定されると気の毒なので、そこは分からないように書きます)

 

Aさんは維新の公認のもと、B市から出馬しようと準備をしていたのですが、党の事情で隣接のC市からの出馬に変更するよう求められ、C市への引っ越しや事務所設置の準備に入ろうとしているところでした。統一地方選まで残り5か月のころでした。

 

その状況を心配した共通の知人が私に引き合わせ、意見を求めてきたのでした。

 

私はまず「なぜ市議会議員になりたいのか?」を訊ねました。

彼はある国家資格を持っており、その資格の関連分野においてはそれなりに高い政治意識を持ち合わせており、これまでも一定の活動をしてきたようで、そんな話をしてくれました。

しかし、C市はおろか、もともと活動していたB市の市政に直接関連するような話が出てこないのです。

 

あなたは市議会議員になるんでしょ?それも、C市の議員になるんでしょ?

と思いながら聞いていた私は、「まさか?」と思いつつ、

 

「C市の市長さんって誰か知ってる?」

と訊きました。彼は私の問いかけに絶句し、うつむいてしまいました。

 

当時のC市の市長はわりと知名度が高く、他市の市民でも政治に関心のある方であれば名前くらいは知っているものでした。

言うまでもなく、議員の一番の仕事は市長をチェックすることです。今まさにC市で立候補準備を始める人が、市長の名前すらも知らない、C市政についてまったく無知だなんて…。

そして、そんな彼を、(C市に対する知識や想いを確認することもなく!)C市の候補者にする維新って…。

 

私はハッキリ言いました。

 

「維新から出れば、あなたは当選すると思う。ただし、いい議員になれるとは思えない。」と。

 

5か月後、彼は当選しました。全体の中位での当選でした。

 

維新の候補者選定の実態をまざまざと見せつけられた気にもなりましたし、今回、「居住要件の撤廃」を彼らが提案したことで、5年前のこの事例が、再び思い返されたのでした。

 

地方議員は駒ではない

その後、今年の選挙で2度目の当選を果たされたAさんですが、C市の議員としてどのように活動されているかは存じません。

少なくともSNSなどを拝見する限りは、ご自身の資格に関連した活動は相変わらず精力的なようですが、C市議員としての活動の様子はあまり伝わってはきません。

 

ただ、そんな彼も一つの議席として、いわば党派の駒としては「1」であることに違いありませんし、むしろ当該自治体への知識や想いがない分、扱いやすい駒なのかもしれません。

党派の勢力を最大化するため、駒を増やすためには、どこ(の選挙区)にどれだけの戦力(候補者)を投入するか、ギリギリまで情勢を見極めたいこともあるでしょうからね。

その時に「○○市でなければ」なんて想いは、動かす側から見れば邪魔なだけでしょう。

 

そして何よりの障壁となるのが「居住要件」です。

「居住要件」を撤廃したいのは、彼のような無知な候補者を駒のように動かしやすくするためです。

 

維新の音喜多政調会長は、居住要件撤廃の提案の理由に「住んでいないからこその視点」と述べていますが、現に関わったAさんの事例からも、私は真っ赤なウソで、単なる後付けだと思っています。

※音喜多氏のブログの一文

 

なお、Aさんのような事例は他にも少なからずあると思っていますし、噂レベルではよく聞く話です。

 

地方議員(候補者)は、このような「駒」でいいんでしょうか。

多様な民意を反映するため、同じ党派であってもそれぞれに個性と、当該自治体への熱い想いをもった存在でないといけないと、私は思っています。

 

公選法はこう改正したい

そもそも、住んでもいない候補者が政党の看板で易々と当選してしまうこと自体が、私にとっては驚きです。

 

だったら本当に住んでいない候補者でも堂々と出られるようにしよう!

というのが、維新の提案のようですが、私は逆ですね。

 

こういう候補でも通ってしまうのは、候補者の個性を見極めにくい選挙制度に原因があります。候補者の個性を見たくても見られないから、政党の看板を判断材料にするしかないのです。

 

戸別訪問を解禁する。

選挙中のポスティングを解禁する。

演説会の案内(紙)を作れるようにする。

夜20時以降もビラの街頭配布を認める。

候補者同士の討論会を認める。

 

等々、有権者が候補者の政策や自治体への想いを知り、理解しやすい環境を作ることが肝要だと思っています。

 

そうして有権者が候補者を見る目が変わっていけば、自ずと「住んでもいない人が当選する」なんてことは減っていくでしょうし、「住んでいない人も立候補できるように」なんて発想も出なくなるんだろうと思います。

 

 

堺市議会議員ふちがみ猛志

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