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幼児教育の無償化が、いい施策かどうか

堺市の来年度の子育て支援の目玉政策が、「第三子以降の保育料の無償化」です。

これは、今年度から02歳児を対象に始まり、来年度、全年齢(05歳児)への拡充を図ろうというものです。

 

一方で、大阪市が目玉政策にしているのが、「幼児教育の無償化」です。

これは、今年度、4歳児を対象に始まり、来年度、5歳児にも拡充されるようです。

 

さて、この二つを比較する議論が、大綱質疑、健康福祉委員会の市長質問、予算審査特別委員会健康福祉分科会、予算審査特別委員会の計四回にわたり、維新の会の議員から行われました。

 

いずれも、「第三子以降の保育料の無償化」よりも、「幼児教育の無償化」が優れた政策であるとの論調でした。

 

 

そもそも、主旨が違う政策を、単純比較をするのもどうかと思いますが、こうして議会で比較した議論が行われておりますし、私も意見を述べたいと思います。

 

 

結論から言えば、私は「幼児教育の無償化」は、それほどいい施策だとは思っていません。

「やれたらいいな」とは思いますが、現時点において、子育て・教育関係の中では、優先順位が低い政策だと思っています。

 

理由は以下の3点です。

 

【私がそう考える理由】

①「無償化しないと幼児教育を受けられない子ども」は、ほとんどいない

②子育て支援・少子化対策にはなるが、効率が悪い

③女性の社会進出と逆方向に誘導しかねない

 

それぞれ説明を加えます。

 

【理由の説明】

①「無償化しないと幼児教育を受けられない子ども」は、ほとんどいない

 

つまり、「経済的理由で幼児教育を受けていない子ども」は、ほとんどいないということです。

何やらかなりいそうですが、実はほとんどいません。

 

「幼児教育を受けていない子ども」は、堺市の45才児のうち、23%くらいいると思われます。

堺市で、「認可外施設を利用している子ども」と「在宅保育の子ども」の合計が約3%です。

そこから先はデータがありませんが、認可外施設でも幼児教育を提供している施設はありますから、「約3%-α」です。

 

そのうち、圧倒的多数が「(幼児教育のない)認可外施設を利用している子ども」です。

 

その子どもが「経済的理由で幼児教育を受けていない子ども」かと言えば、決してそうではありません。むしろ、認可外施設は、認可施設よりも高額のケースが大半です。

 

認可外を利用しているのは、経済的理由ではなく、「認可施設に入れなかった(待機児童)」、夜間勤務などで「条件に合う認可施設がなかった」といったものです。

つまり、これらの子どもが幼児教育を受けられるようにする政策は、「幼児教育の無償化」ではなく、「認可保育の枠を増やすこと」や「認可施設のサービスを拡充すること」となるわけです。

 

つづいて、「在宅保育の子ども」はどうでしょうか。

正確なデータはありませんが、「約3%」から認可外施設利用者を引いた数ですから、相当に低く、1%にも満たないでしょう。

さらに、そのすべてが「経済的理由で在宅保育を選んでいるのか」と言えば、それも違うでしょう。

そもそも幼児教育には、就園奨励補助金があり、低所得の家庭では満額か、満額に近い補助が出ます。

 

つまり、「無償化しないと幼児教育を受けられない子ども」がいるとすれば、「就園奨励補助金の対象とならない中・高所得の家庭だけど、それでも親が幼稚園代を負担に感じ、在宅保育している子ども」です。

果たしてそれがどれくらいいるでしょうか。

 

大阪市の吉村市長は、「幼児教育の無償化」の目的を、「すべての子どもたちが等しく教育を受けられること」としています。

その目指すところは非常に大事なことですが、その手段は「幼児教育の無償化」ではないと、私は思うのです。少なくとも、莫大な予算を投じるその手段によって果たされる「目的」は、予算投入対象者のうちの、ごくごく一部に限られるのです。

 

 

②子育て支援・少子化対策にはなるが、効率が悪い

 

「幼児教育の無償化」の主たる目的とはされていませんが、子育て世帯への経済的支援であることには間違いなく、少子化対策にはなるでしょう。

しかし、これも決して効率のいいものとは思えません。

 

厚労省の出生動向基本調査に、「理想の子どもの数を諦める理由」についてのデータがあります。「本当は〇人ほしいけど、△人で諦めた」というもので、その理由(障壁)を解消していくことが、少子化対策になるわけです。

そこで、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」と答えたのは下記の通りです。

 

1人ほしいけど、0人 …15.6

2人ほしいけど、1人 …43.8

3人ほしいけど、2人 …69.8

 

これを見ても明らかなように、「経済的支援」が「少子化対策」に結びつくのは、1人目よりも2人目、2人目よりも3人目なのです。

限られた財源を有効に使う観点で、「幼児教育の無償化」を「子育て支援・少子化対策」として評価すると、圧倒的多くの財源を1人目に投入していますから、これは「効率のいい施策」とは決して言えないと考えます。

 

※ただし、「幼児教育の無償化」の本来の目的は①で述べた通りです。ここでは「副次的な効果が、効率のいいものかどうか」について述べました。

 

 

女性の社会進出と逆方向に誘導しかねない

 

専業主婦で幼稚園を利用するか、働いて保育所を利用するか悩まれている女性はたくさんいらっしゃいます。

労働人口が減少する中で、女性の社会進出を促していこうというのは、政府の大きな方針の一つでもあります。

 

そうした中、「幼児教育の無償化『だけ』」ではどうなるのか?

 

これは私の予想ですが、専業主婦志向が強まるのではないかと思います。

 

「幼児教育の無償化『だけ』」では、幼稚園代は無料になりますが、保育所代は約半額にしかなりません。

つまり、相対的に幼稚園にお得感が出てしまいます。(両方、無料ならいいんですが)

 

果たして、そうした施策が続いた時に、先述の「悩まれている女性たち」はどういう判断をされるでしょうか。

 

私はこの点にも危惧を抱いており、大阪市の女性の就労動向がどうなっていくかに注目しているところです。

 

 

 

【ではどうするか?】

私なりの提言をしたいと思います。

 

①「すべての子どもが等しく教育を受けられる」という視点

 

吉村市長も政策の目的に掲げたこの理念は、大変すばらしいものです。(しかし、幼児教育の無償化が、必ずしもそれに合致しないと述べました)

 

では、私ならどうするか?

 

まずは、経済的理由で諦めることの多い、「大学教育から」だと思います。

全ての大学教育を無償にはできないでしょうが、返済不要の給付型奨学金など、無料で大学に行ける道筋を、もっと広げるべきだと思っています。こちらの優先順位の方が、「幼児教育の無償化」よりも遥かに高いと思っています。

 

しかし、経済的理由以外で、幼児教育を受けられていない子どもがいます。

その点については、先述の通り、「認可保育の枠を増やすこと」や「認可施設のサービスを拡充すること」に尽きると思います。

まだまだ待機児童の多い大阪市です。幼児教育無償化に投入するとてつもない予算があれば、認可保育所の枠を、相当に増やすことができるはずです。

 

 

②「少子化対策」という視点

 

これは全方位的にやらなければなりませんが、あえて端的に言えば、、

 

1.正規労働を選べる労働環境を作ること

2.働き方改革を進めること

3.経済支援は、多子家庭等を中心にメリハリをつけること

4.不妊治療、産後ケア等、きめ細かな施策を充実させること

 

だと思っています。

 

1は非常に重要ですが、国政マターなので割愛します。

 

2も主に国政マターですが、「夫の家事・育児への協力が得られないから」という理由が、「二人目を諦める場合」が11.6%で、一人目の2.6%に比べ、非常に顕著です。これも、少子化対策に関わる問題です。

 

3は、堺市の「第三子以降の保育料無償化」がまさにそれにあたります。

三人目を育てるということは、「社会の担い手を増やす」「将来の納税者を増やす」ということですから、もっといろんな支援があってもいいと思っています。

 

4は、自治体がやれることとして、忘れられがちですが、非常に重要です。

「一人目の子どもを諦める」、その最大の理由は「欲しいけれどもできないから」で、実に74.0%です。不妊治療への公的助成の拡充は必須です。また、第一子での苦労が、第ニ子を躊躇させるケースが非常に多く、切れ目のない育児支援が求められます。

 

 

 

かなり長くなりましたので、これくらいにしておきます。

 

「幼児教育の無償化」を必ずしも否定はしません。

いつかできればいいだろうとは思います。

ただし、それ以前に、「教育の機会の確保」「少子化対策」、いずれの視点においても、もっと優先順位が高く、効率のいい施策があると、私は思っています。

 

 

 

 

 

堺市議会議員  ふちがみ猛志

意見・提案