情報弱者切り捨てのペーパーレス化
先日、議会力向上会議で、議会のペーパーレス化について議論がありました。
ペーパーレス化を進めていくこと自体には、誰も異論はありませんし、実際に議会もその方向で着実に進んでいます。
今回、議論の対象となったのが議案書です。
私たち議員のもとには、毎定例会(3か月1度)、48人の議員に1人1冊、この写真のような分厚い議案書が配られます。正直なところ、私もこれを「すべて」読み込めているわけではありません。必要そうなところをピックアップして目を通しています。(全部読んでいる議員さんもいらっしゃるでしょうが)
この議案書について維新の会が「紙の議案書をなくすべき。電子データで十分。」と提起したのです。
それに対し、ICTが苦手な一部の年配の議員からは「紙でほしい。」という要請もありました。
話し合いを進める中で、
〇方向性としてペーパーレス化は進める。
〇議案書も基本的にはデータで配布する。
〇ただし、紙でほしい人には紙で配布する。あるいは、各会派に1冊ずつ配布する。
という、柔軟な対応とすることで、維新の会『以外』はまとまりました。
これで40冊ほどの紙の議案書が削減できることになります。
8冊ほどは残ってしまうわけですが、どのみち保存用や、傍聴者用、役所サイドのあれやこれやで、全体をゼロすることは不可能です(100冊程度は印刷するようです)。だから、議員に配られる48冊をゼロにすることに固執してもコストメリットはほとんどなく、「議論に支障のない範囲でできるだけ減らす」というのが妥当なところだと、私たちは判断しました。
これに反発したのが、維新の会です。
彼らの主張はこうです。
1.議員への配布はゼロにすべき。
2.議会がペーパーレス化を率先する姿勢を示すべきで、「どうせ他にも印刷するのだから」は関係ない。(姿勢の問題)
3.データで配るのだから、紙で欲しい人は、自分でプリントアウトすればよい。
2は精神論なので、置いといて、、、、
3は一見合理的なようにも思えます。
しかし、こんなに分厚い議案書を、紙でほしい人が、個々にプリンターで印刷していては、余計にコストがかかってしまいます。(この指摘にも「コストの問題ではない、姿勢の問題!」とまたまた精神論が返ってきました・・)
また、「必要なところだけ」を印刷するとしても、その「必要なところ」を電子データの中からピックアップする作業が、特に年配の、電子機器に慣れていない方には大変なのです。
ペーパーレス化はもちろん必要な取り組みだと思います。
ただし、議会の目的は「ペーパーレスそのもの」ではなく、「社会全体をよくすること、そのためにしっかり議論をすること」です。
ペーパーレスのために、議案書が見づらい、議論がしにくい、なんてことになったら本末転倒です。
ICTが苦手な議員だって、有権者からちゃんと選ばれた同じ議員です。ICTを使いこなせないと議員になれない、なんてルールはありません。彼らには彼らの「しっかり議論する責務」があり、そのための環境は与えられるべきです。
世の中全般でICT化が進む中、情報格差が大きな問題となっています。高齢者を始めとする情報弱者でも暮らしやすい社会を作るのは、私たちの大きな使命です。
「姿勢を示せ」という精神論を語るならば、ペーパーレス化を無理強いすることよりも、「情報弱者ともいえる高齢の議員にも配慮すること」こそが、議会が示すべき「姿勢」ではないでしょうか。
当該の年配の議員の方々も、別にICTをすべて拒絶しているわけではありません。
それぞれに、いわゆるガラケーをスマホに変えてみたり、ICTを使えるにようなるために努力をなさっています。それでも、できないものはできないのです。
結局、いったんは私たちが主張した「基本はデータで、でも必要な人には紙で」ということになったのですが、、、それでも維新の会の議員はこう食い下がりました。
だったら、期限を示すべき。
いつになったら完全にペーパーレスにできるのか?
と。
さすがにこれには閉口しました。
「したくてもできない人がいる」という大前提の中で、「いつまでにICTを習得できるか、期限を示せ」というのは、あまりに横暴です。なにか、弱い者いじめを見ているようで、気分が悪くなりました。
繰り返しますが、紙の議案書を欲しがっている議員さんも、やる気がないのではないのです。やりたくてもできない、配慮してほしい、と言っているのです。そんな人が「〇〇までに習得できます」なんて言えたら苦労はありません。
もし、彼らがこの「姿勢」で社会全体のICT化を主導する立場になったなら・・・、
いつになったらスマホを使いこなすようになるのか?
いつになったらパソコンで申請できるようになるのか?
いつになったら紙を全廃できるようになるのか?
高齢者たちは自ら期限を示せ!!
とでも言うのではないでしょうか。(言い出しそうです)
そんな空恐ろしいことを想像してしまう、議会力向上会議でのペーパーレスの議論でした。
ICT機器や、ペーパーレスにも『それなりに』対応できる私は、(苦手な方に比べれば)情報強者とも言えます。そんな、強者かもしれない私ですが、(ICTに限らず)常に「弱者の立場を想像し」「弱者に寄り添って」、議会のあり方についても、社会のあり方についても議論し、判断ができる、そんな議員でありたいと思っています。それを再確認した、ペーパーレス化の議論でした。
堺市議会議員ふちがみ猛志