拉致問題の決議について
この度の11月定例会で、「北朝鮮による日本人拉致問題に対する理解を深めるための取組を推進するための決議」が、全会一致で可決されました。
画像が見にくい方は、こちらからどうぞ↓↓↓。
http://www.city.sakai.lg.jp/shigikai/kaigi/kaketsu.files/0312giinnteisyutugiann38.pdf
長ったらしい名前なのですが、要するに「拉致問題が風化しないように、啓発していこう」という決議です。
実は今回、同様の決議が、自民党、維新の会の双方から提案されておりました。ほぼ同文だった2つの決議は、自民党が一部分を修正し、結果として自民案が先に可決。維新案は「同様の案がすでに可決されたので」と、議論されずに終わることになりました(一事不再議の原則)。
この決議は私にとって印象深いものとなりましたが、少々ややこしい話なので、ここでじっくりと書かせてもらおうと思います。
■大前提
■2つの決議の違い
■アニメ「めぐみ」とは?
■アニメ「めぐみ」に必要な配慮
■強制になれば何が問題か
■この決議は強制となりうるか
■懸念を受け止めてくれた自民党
■そもそも決議とは
という流れで書かせてもらいます。
■大前提
あえて書くまでもないのですが、こうでもしないと、しょうもないツッコミが予想されるので・・書きます。
この度の決議は全会一致。つまり、私も賛成しています。
「拉致問題を風化させないために啓発を」という主旨に、私は賛同しています。
また、子を持つ親としても、拉致問題に言葉に表しようもない強い憤りを感じておりますし、当然のように、無事の帰国と、親子の再会を祈っています。この問題の解決は、おそらく全国民の共通の思いではないでしょうか。
■2つの決議の違い
という、大前提を書いたところで、今回提案された自民案(可決された修正案)と、維新案の違いについてです。
それは結論部分です。
自民案は、
『よって本市議会は、1日も早い拉致被害者全員の救出に向けて、北朝鮮による日本人拉致問題に対する理解を深めるための取組を推進する』
となっています。
一方で維新案は、この『救出に向けて』の後に、『アニメ「めぐみ」・・・等を通じて』と、アニメ「めぐみ」をはじめとする、啓発の手段を具体的に例示しているのです。
この「具体的な手段の例示があるか、ないか」が2つの決議案の違いです。
それが「ない」自民案が可決されました。
あったら何が問題なの???
と、その前に、アニメ「めぐみ」をご存じのない方のためにそこから説明させてもらいます。
■アニメ「めぐみ」とは
政府の拉致問題対策本部が作成した25分のアニメで、拉致被害者である横田めぐみさんが拉致された時の様子や、その後の横田滋さん、早紀江さんらご家族の苦悩や、救出のための活動を描いた作品です。
アニメゆえにわかりやすく、アニメゆえに感情に突き刺さるものがあります。
私もこのアニメを見て、この問題への憤りを強くしたところです。
この「わかりやすさ」については、このアニメの活用を強く求めてきた議員の口からも、議会で「アニメのよさ」として紹介されています。
しかし、私はこの「わかりやすさ」「感情に訴えかける強さ」ゆえに、特に教育現場で活用する時に配慮が必要だと思うのです。
■アニメ「めぐみ」に必要な配慮
これは、アニメ「めぐみ」に限った話ではありませんが、拉致問題を学校で子どもに教える場合、必要となる「配慮」があります。
それは、朝鮮、韓国ルーツの子どもたちへの配慮です。
日本人拉致事件は北朝鮮当局が起こしたものであって、北朝鮮国民、まして日本に住む北朝鮮ルーツの子どもたちには何の責任もありません。ただ、いくらその違いを教えたところで、その分別がつかない子どももいるでしょう。
それが、いじめや嫌がらせに繋がりはしないか、そこまでいかずとも、朝鮮・韓国ルーツの子らが肩身の狭い思いをしないか、自身のアイデンティティを隠したり、否定したりしてしまうことはないか。そうなってしまうリスクを完全に否定することはできないはずです。
「そんなことにはならない」と言う人もいるかもしれませんが、ミサイル問題も含め、北朝鮮と間の問題が大きくなった時、しばしばヘイトスピーチが発生しています。韓国・中国との間の外交問題でもそうです。大人ですら、その分別がつかずにいじめを働く人がいるわけです。また、私の知人(大人)でも、肩身の狭い思いをされている朝鮮ルーツの方がいます(「そんな必要はない」と私はお伝えしていますが)。
拉致問題は教科書にも載っており、基本的には授業の中で教えることになりますから、そうならないための配慮は常に必要です。ただ、アニメという非常にわかりやすく、感情を揺さぶられやすい手法を使う場合、そのリスクは大きくなり、必要な配慮もまた、より大きなものとなります。
そして、クラスに朝鮮・韓国ルーツの子がいるかどうか、もともといじめがあるかどうか、人権教育がうまく進んでいるかどうかなどの諸条件によって、そのリスクの大きさ、配慮の必要性と難しさは大きく変わってきます。
アニメ「めぐみ」を使うな、と言っているのではありません。
使う場合には、一層の配慮が必要であること。また、その配慮は環境によって、より強く求められるということを言いたいのです。
そして、この「配慮」については、堺市教育委員会も「人権教育、国際理解教育の推進」という形で求めております。
■強制になれば何が問題か
強制になれば、それは政治的中立を・・という小難しい話は置いておきましょう。
問題は、もしこのアニメ「めぐみ」の教育現場での活用が強制されたら、先に述べた「配慮」が疎かになりかねないことです。
私は、現場の先生方が自身の判断で、そして十分な配慮をした上でアニメ「めぐみ」の活用を選択するのならば、それはそれでよいと思っています。
ただ、いったんそれが「強制」「必須」となり、活用「しなければならない」となってしまうと、どうでしょうか。
人権教育、国際理解教育の推進などというまわりくどいことをせず、「上から言われたからとりあえず、やってしまおう」となりはしないでしょうか。その中で、子どもが傷つくことは、起こり得ないのでしょうか。私は、起こり得ると思っています。
繰り返しますが、拉致問題は教えるべきものです。ただ、その進め方には十分な配慮が必要であり、そのためには、現場に相応の裁量が認められなければなりません。現場も知らない、その学校ごと、そのクラスごとの子どもを取り巻く状況を知らない政治家が、遠くから具体的な手法を強制するようなことは、あってはならないと私は思っています。
■この決議は強制になりうるか
今回の決議の賛否における論点は、『アニメ「めぐみ」等の活用を、教育現場に強制するものになるのか、どうか』であったと思います。
その中で、維新案の結論部分のアニメ「めぐみ」の具体的な例示が、教育現場に強いプレッシャーを与え、限りなく強制に近いものになりうると、私は判断しました。
単純に文面だけを読めば、「強制ではない」という見解もあるでしょう。現に私の会派の中でも、そのような意見がありました。
ただ、この議会定例会においても、一部の議員から「学校園で100%上映するべき」との意見が出され、市長自身が「100%上映を教育委員会に強く要望する」と応えています。(市長発言は独立機関である教育委員会への越権行為だと思います)
こうした前後関係を踏まえれば、この決議(維新案)がダメ押しになる、強制のようになってしまうと私は感じたのです。そして、現にそれを危惧する教員の声が、あちらこちらから聞こえてきたのです。
■懸念を受け止めてくれた自民党
冒頭述べたように、当初の自民案は、維新案とほぼ同じでした。アニメ「めぐみ」に言及した結論部分がありました。
しかし、上記の懸念を伝えたところ、自民党はその意を汲み、具体的例示の削除という形で修正をしてくれたのです。そして、採決前の質疑では、この決議について「人権上の配慮、国際理解教育の推進が大前提」だとする答弁もしてくれました。
これによって、全会一致での可決となったのです。より強い決議となったのです。
私以外からも同様の懸念、修正要請があったようですが、もともと自民党の中では「強制にはならない」「結論部分に具体的な例示があるべき」と考える議員が多かったはずです。
にもかかわらず、このような(議会では)少数派の懸念の声を受け止め、譲歩・修正してくれた自民党議員には、感謝しているところです。
■そもそも決議とは
決議とは、「議会の意思」を世に示すものです。
どうしても賛否が分かれ、折り合いをつけられず、採決される場合もありますが、できる限りは全会一致であるべきです。せめて一人でも多く賛成者を募るべきです。
それを目指して譲歩・修正した自民党の動きに対して、(どういうわけか)維新から非難の声もありましたが、この件においては、自民の姿勢が、議会人として当然のものだったと思います。
一方で、維新は一文字たりとも修正しようとしなかったばかりか、決議への賛成を要請してくることもありませんでした。おそらく、多少反対や懸念の声があっても「可決できる」と見込んでいたからでしょう。
口では「拉致問題を全国民で」と言いながら、わずか48人の議員に対してすら、理解を求める努力をしないって・・、どうなんでしょうか。
いずれにしても、少数意見に対する両会派の姿勢の差が、如実に表れた一件でした。
■蛇足ですが
同様の「懸念」「配慮」は、他国における歴史教育にも言えることです。
アジア諸国での歴史教育においては、どうしても「日本から受けた被害」の歴史が色濃くなります。その中で、日本ルーツの子どもがいじめられないか、嫌な思いをしないかと、私は心配ですし、それぞれの国の教育現場で適切な配慮がなされることを願っています。(ウイグル話法はご勘弁を!)
ただ、堺市議会議員の私の職権では、他国の教育には直接関与できません。だから、まずは私の職責の範囲として、堺市民の人権上の問題(になりうること)として、以上のようなブログを書かせてもらいました。
堺市議会議員ふちがみ猛志