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児童自立支援施設で指摘したこと~大綱質疑②

大綱質疑にて、児童自立支援施設について、様々な視点から問題を指摘させてもらいました。長文になりますが、ご容赦ください。

 

まず、簡単に前提となる話を纏めます。

  • 児童自立支援施設は、非行をした子や、虐待等で家庭で生活習慣を身に着けられなかった子のための入所施設。
  • 大阪府内には、大阪府が運営する修徳学院(柏原市)、大阪市が運営する阿武山学園(高槻市)があり、堺市も自前で設置すべく建設直前だった。
  • 本年8月22日、永藤新市長が建設計画の中断を発表、「大阪府の修徳学院を増築し、堺市の子を受け入れてもらう(事務委託)」ことで調整に入った。

 

前提だけでももっと書きたいことがありますが、そこは過去ブログをご参照ください。

https://fuchigami.info/児童自立支援施設を弄ばないで/

https://fuchigami.info/堺に児童自立支援施設を/

 

その上で、私が指摘したのは以下のようなことでした。

 

■後付けで「子どものために」と言い出した市長

8月22日の計画中断を発表した記者会見で並んだ言葉は、コスト、コスト、コスト、、、と中断の第一の理由が「コスト」であったことは明らかでした。

それが今になり、「修徳学院は夫婦制だから、修徳学院でお世話になる方が子どものためになる」と言い始めました。夫婦制とは、子どもたちの寮を実際の夫婦(寮父・寮母)が運営し、疑似的な家庭環境を作る制度です。これに対して、堺市は職員の3交代制を想定していました。

市長は「実際に拝見して」「寮母さんにもお話を聞いて」、そう判断したというのですが、これは完全な「後付け」です。なぜなら、市長が修徳学院を訪問したのは、計画中断の発表のあとの8月30日だからです。

そもそも、本当に「夫婦制がいい」と思っているならば、市長が判断すべきは「計画の中断」ではなく、「堺市の計画を夫婦制に修正すること」です。

堺市は施設運営の経験がないので、「確実にできる3交代制」を前提としていましたが、それこそ府市連携で、「修徳学院と人事交流をすれば夫婦制ができるのではないか」と私は指摘しました。

 

■コストは本当に膨大なのか

市長の記者会見でも、あるいはこれまでの議会の議論でも、同施設について「建設費35億円、ランニングコスト年間5億円」とありましたが、「本当にそうなのか」と指摘しました。

建設費に関しては「国庫負担5.5億円、起債(市の借金)23.5億円」との答弁がありました。35億円から、その2つを差し引くと、一般財源(すぐに市が負担する分)は6億円です。市の借金は、当然ながら、市の将来負担ですが、「約7割が交付税措置(≒国が出す)」とのことで、つまり残り約3割(=約7億円)が市の将来負担です。一般税源と合わせて、約13億円です。当初の「35億円」とは、ずいぶんと印象が変わります。

また、ランニングコスト5億円についても、「基準財政需要の算出に考慮されている」とのことでした。少しややこしいのですが、簡単に言えば「国は、堺市が自前で施設を運営することを前提に、お金(交付税)を出している」ということです。にもかかわらず、堺市は自前で運営せず、割安な大阪府への事務委託で済ませているのです。(運営せずとも、それを考慮した交付税がもらえる)

交付税は「児童自立支援施設の運営用にいくら」というような算出が難しいので、「浮かせた分をピンハネ」とまでは言いませんが、少なくとも私は「交付税措置されているのに、運営費が負担だから計画中断」というのには、違和感を覚えざるを得ないのです。

 

■そもそも「義務」!

児童自立支援施設は、政令市に「設置する義務」が課せられています。なのに、堺市で設置しないって・・・。

「義務」には、「やるべき義務」と、「やらなくてもいい義務」があるの??

そんな素朴な質問をぶつけたところ、当局の答弁は「たしかに義務はあるが、事務委託し、委託費を払えば、委託先に義務が移管する」というようなものでした。つまりこの場合、大阪府(修徳学院)に義務が移管するというのです。

「養育費だけは払うから、養育義務は祖父母に」と言って、子どもを預ける親のようです。もちろん、どうしてもその義務が果たせない場合は、それもありえます。

しかし、少なくとも!「一義的には義務は課せられたもの(堺市)が果たす」ものですし、堺市はそれを「果たすことができる(設置できる)」と一時は判断していたわけです。

そもそも、「児童自立支援施設を設置する義務なんて、過大だから果たせない」と思うなら、「設置する義務を課した児童福祉法の改定」を国に求めるべきです。あるいは、「義務は果たしたいけど、金がない」というならば、「建設費、運営費への国庫負担の増額」を国に求めるべきです。そんなこともせずに義務を放棄し、大阪府に任せてしまう今回の判断、姿勢は、法令に従って動く行政として、本当にこれでいいのでしょうか?

 

■間違っているのは市長か、子ども青少年局長か?

堺市で施設を設置した場合のメリットについて、子ども青少年局長の見解を改めて確認しましたところ、「市民、関係機関との協働」「きめ細かなアフターケア」等々、多くのメリットが挙げられました。こうしたメリットをどの程度のものと評価するかはともかく、メリットであること自体は、市長が変わっても、変わるものではないはずです。

その中で気になる「メリット」がありました。それは、「子ども相談所の判断で、速やかに入所措置することができる」というものです。当然、その反対(堺市で施設がない場合のデメリット)は、「速やかに入所措置できない」です。

一方で永藤市長は、弁護士会声明の「すぐに入所できない」という指摘に対し、「(堺市に施設がなくとも)すぐに入所できる」と反論しています。

永藤市長と、子ども青少年局長、果たして本当のことを言っているのは、どちらでしょうか。

「すぐ」「速やかに」をどの程度とするのかは、人それぞれですから、市長と局長でその認識が違っているだけなのかもしれません。ただ、その違いは、「1日でも早く、子どもを適切な環境に」と奮闘している現場を知る人と、机の上で判断している人との違いなのではないでしょうか。

 

■本当に「子どものため」になるか?

市長は「子どものために、夫婦制の修徳学院に」と主張しているわけですが、「子どものために」なるかどうかの尺度は、他にもたくさんあります。

先に挙げた様々なメリットがそうなのですが、私が特に拘るのは、地元地域との物理的な距離です。

この「距離」は、家族や関係者の「通いやすさ」に繋がり、子どもとの「面会頻度」に繋がります。

「面会」は、家族との絆を維持すること、退所後にスムースに家庭復帰することに不可欠です。非行をする子は自己肯定感が低い子が多いのですが、面会を通じて、家族に愛されていることを確認し、それが自己肯定感に繋がり、それが更生の重要な要素になる子も少なくありません。私は保護司をしていますが、少年院や鑑別所で孤独になった時に、親が面会に来てくれたことへの感謝の言葉を口にする子が多く、それが親子関係に強い影響を及ぼしていることを実感します。

堺市と柏原市(修徳学院)では、たいして変わらないと思われる方もいるでしょう。しかし、非行をする子の家庭は、様々な課題を抱えているケースが少なくありません。生活に余裕がない中で、施設に行き来する際、この距離の差は決して小さくはないのです。

何より、他府県に措置されれば、それどころではなく、頻繁な面会は非常に困難になります。いくら修徳で定員を増やしても、他府県に措置されることがあります。一つは共犯の子がいて、同じ施設にさせられない場合です。堺市が施設を持つことになれば、仮に3人までの共犯であれば、堺市、修徳学院(柏原市)、阿武山学園(高槻市)に入れて、大阪府外に措置せずに済みます。(2人であれば北摂まで行かずに済む)

また、修徳学院の雰囲気・校風が合わなくて、他の施設に措置される子もいるそうです。修徳学院は非常にスポーツに力を入れており、それがうまく作用している子もたくさんいますが、もちろん、そういう雰囲気が苦手な子もいるのです。非行などの課題のある子も様々ですし、環境に過敏な子もいます。

堺市の施設を、修徳学院とは違う雰囲気の施設にすることで、様々な子が、大阪府内に留まることができるようにもなります。

大阪府の課題のある子が、府外に措置されることをできるだけなくすために、大阪府(修徳学院)、大阪市(阿武山学園)、堺市の3施設で連携していく。これこそが、本当の府市連携ではないでしょうか。

 

■そこにビジョンはあるのか?

最後はビジョンです。

堺市には「堺市社会的養育推進計画」がありますが、個々の取り組みについてはそれなりに書かれているものの、それらがどのように関連していくのか、面的な視点に欠けるものになっています。また、虐待防止も、入口対策から出口対策まで、時間軸で対策がつながっていくような視点が、ここには欠けています。

この計画は、社会的養育・養護のビジョンとして、物足りないものだと言わざるを得ません。

そして私は、全体ビジョンが不十分な中、その大事なピースであるはずの児童自立支援施設だけが個別に議論され、否定(建設中断)されている状況に、違和感を覚えています。

私は児童自立支援施設の建設を進める立場ですが、児童心理治療施設や、自立支援ホームなど、機能の一部を担いうる施設もあり、そうした施設の整備の先には、ひょっとすると児童自立支援施設の必要性も、低下するかもしれません。ゆえに私は、「まずはビジョンを作って示してほしい!その上で、改めて要否について議論しよう!」ということを、最後に市長に求めました。明確な答弁はありませんでしたが、ビジョンの必要性は実感してもらえたものと、信じています。

 

 

この児童自立支援施設については、課題のある子どもたちの未来に係る大事なテーマですから、引き続き、上記のような視点を持って、議論を続けていきたいと思います。

 

 

堺市議会議員ふちがみ猛志

 

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