削減した自動運転バス予算
こんにちは。堺市議会議員(堺区)のふちがみ猛志です。
3月13日に行われた予算審査特別委員会において、永藤市長が提案した令和6年度予算案のうち、「都心部における自動運転バスの実証実験予算」を削減する案が、賛成多数で可決されました。
提案したのは公明党堺市議団、自民党市民クラブ、私が所属する堺創志会の議員で、共産党、長谷川俊英議員もこれに賛成しました。
私は当日の提案理由説明や、削減に反対する議員からの質疑への答弁に立ち、事前の作業も含めて中心的に関わりました。
なぜ削減??
自動運転ってダメなの??
そのことについて解説します。
削減した中身
永藤市長はSMIプロジェクトと称する取り組みを進めています。(サカイ・モビリティ・イノベーションの略だそうで、ほんとに、横文字が好きな人です・・)
そこには様々な事業が含まれるのですが、その一番の中心となっているのが「堺東駅・堺駅間(大小路)への自動運転バスの導入」です。
今回削減を提案したのは、
来年度の自動運転バスの実証実験の費用約1.9億円と、その実験結果を分析するための1000万円、計2億円です。
SMIプロジェクトに含まれている、堺中心部と美原区とを直行バスでつなぐ美原ライン事業等の他の事業は削減対象にしていません。
なお、私もかつて動画で批判した「大小路交差点の改造計画」(※以下URL参照)については、今回の予算には含まれておらず、よって削減対象にもなっていません。
※動画「大小路交差点の大改造計画」
https://www.youtube.com/watch?v=7DZa1N0rUcQ
では、なぜ自動運転バスの実証実験に反対したのか。
私は自動運転バスそのものを否定しているわけではありません。
削減に至った理由①
削減の第一の理由は、今後この事業にいくらお金がかかるのか、わからないから、示されていないからです。
SMIプロジェクトが発表された令和3年当時、総事業費は概算で24億円だとされていました。大変な額です。(ただし、この時から私は「この程度では済むまい」と思っていましたが)
そしてこの度、来年度の自動運転の実証実験費用として約2億円が計上されたのですが、なんとその2億円は「24億円には含まれない」とのこと!
さらに当局は、自動運転の実装の目標である令和12年まで「実証実験を重ねる」と言い、しかしその再来年度以降の実証実験については「概算費用すらわからない」と言うのです。
これまでの「24億円」とは何だったのか。
その信頼性は一瞬で崩れ去ったと言っていいでしょう。
議会とは、予算をチェックする機関です(だけではないけど)。
今後いくら予算がかかるかわからない事業、つまり事業全体の費用対効果を判断できない事業に、「とりあえず来年度は2億円で実証実験すればいいよ」なんて言えるわけがありません。
削減に至った理由②
削減の第二の理由は「まちづくりのビジョンがまったく示されていないこと」です。
当局は、堺東駅~堺駅間の中間地点である大小路交差点を「交通結節点にする」「周辺の活性化を図る」旨を表明しています。そのために、
1.自動運転バスを走らせる
2.次世代モビリティのポートを設置する
3.バス停にパークレット空間を作る
などが示されています。
なんだかよくわかりませんが、1についてはすでにシャトルバスが走っている区間なので、そこに大差が出るはずがありません。
2は高齢者が乗る電動車いすのような、新しい乗り物(次世代モビリティ)でまち歩きができるようにするそうです。こんなやつです↓。
3はバス停のそばにベンチやテーブルなどを設置し、そこで少し休憩したり、仕事をしたりできるようにするそうです。
これで人が集まると思いますか?
交通手段(自動運転バス、次世代モビリティ)があるから人が集まるのではなく、人が集まる場所だからそれらの交通手段が利用されるのです。
パークレット空間とやらも、人が集まった場所にあればその人たちが滞留する手段にはなれど、それ自体が「人を集める手段」にはなるはずもありません。
「こうやって大小路交差点周辺に人を集める!」というまちづくりビジョンが示されない中、巨額の予算を投じて交通だけ整備する。
おかしくないですか?
これで結局「人が集まるまちづくり」がなされなければ、「巨額の交通手段の整備」が無駄な投資になりかねません。
削減に反対する議員の主張①
私たちの削減提案に対して、維新の会の議員と、(会派に属さない)水ノ上議員が削減に反対の立場で質問に立ちました。私は主たる答弁者となりました。
残念ながら、彼らの主張には首を傾げざるを得ない点が多く、議論はかみ合わなかったと思います。
彼らの主張の1つが、「ならば東西交通をどう改善するのか?」です。
この主張が論外なのは、この自動運転バス導入が「東西交通の改善につながる」との前提に立っていることです。
(堺市民以外の方のために書きますが)堺市は南北を走る6本の鉄道がありながら、東西を走るものがなく、その結節が必要だと長年言われてきました。私も堺市の大きな課題だと認識しています。
今回の自動運転バスは東西を走る路線ですが、あくまでも既存のシャトルバスの置き換えに過ぎず、改善につながるものではありません。
東西交通改善は、南海本線より西、あるいはその逆の南海高野線より東側に延伸してこそです。もしくは、南北に走る鉄道・鉄軌道が乗り換えなしで東西に分岐してこそです。
ですから、東西交通の改善に寄与しない自動運転バスの導入を否定したとて、「じゃあ、東西交通はどうするんだ?」という反論は成り立ちません。
削減に反対する議員の主張②
もう一つの主張が「どうやってバス交通を維持するんだ?」というものです。
運転士不足が深刻になる中、今後のバス交通の維持には自動運転バスの導入は不可欠で、それに反対するオマエらは、バス交通を維持する気がないのか!
というわけですが、私たちは何も自動運転バスそのものは否定していません。
「全体予算を示せない事業」と「まちづくりビジョンなく一人歩きする交通政策」を否定しているのです。
むしろ「自動運転バス」には、「まちの活性化」などの余計な目的を付加せず、純粋に「バス交通の維持」に重点を置き、維持が危ぶまれる地域に投入すればいいのです。
そうすれば、人集めの手段が示せているかどうかなど問われないし、都心部ではない郊外の路線への導入であれば先行事例がいくらでもありますから、全体予算もすぐに示せるはずです。そして導入も早くなるはずです。
※先進事例の一つ、茨城県境町の自動運転バス
この指摘も筋違いですし、「バス交通の維持」を重要視しているのは、都心の黒字路線への導入を目指す市長や維新ではなく、むしろ郊外の赤字路線への導入を求める私たちの方です。
市長が訴えていること
永藤市長もこのSMIプロジェクトについて度々答弁していますが、そこで発せられるのは、
未来を見据えて挑戦
都市ブランドを確立
といった、実に抽象的な言葉です。
この度の削減案が可決された後も、
挑戦なくしては、(中略)輝く堺の未来もないと危機感を持っている
まさに今が重要なタイミング
などと、悔しさを滲ませながら、これまた抽象的な言葉を並べました。
危機感を持てばこそ、意味のない根性論のような挑戦をしている場合ではないと、私は思います。
美辞麗句で終わらず、なぜそれが輝く堺の未来に繋がるのか、なぜ都市ブランドに繋がるのか、具体的に語ってもらいたいものです。
そして、そもそもどんな市民ニーズがあるのか、そこから議論を出発してほしいと思うばかりです。
驚いた質疑でのやり取り
少し余談になりますが、削減案の質疑の中で驚いたやり取りがありました。
削減に反対する質疑に立った議員が、市長がこのSMIプロジェクトを公約に掲げた上で提案したことに触れ、修正を提案した我々に「否決修正するためには社会・市民が納得する説明が必要」と言ったのです。
市長の公約を通すのが当然だと言わんがばかりです。
これはまったく逆です。
私たちは市民の代弁者たるチェック機関です。
市長の公約とはいえ、それだけで可決する理由になるはずもありません(市長当選の民意は、公約の全項目の承認ではありません)。
たとえ市長の公約であっても「可決してもらうためには議会(市民の代弁者)が納得する説明が必要」なのです。
少なくともこの発言の議員は、行政のチェック機関としての務めを忘れ、単なる市長の追認機関に成り下がっていると思います。
もしこのような考えが議会で蔓延っているのだとすれば、市長が丁寧、具体的な説明を怠り、抽象的な根性論で議案を押し通そうとしている姿も、むべなるかなです。
今後の見通し
13日の予算審査特別委員会での採決の状況を見れば、27日の本会議においても削減案は賛成多数で可決される見込みです。
ただし、、、市長には奥の手が残されています。
首長の伝家の宝刀とも呼ばれる「再議」です。
議会側の提案で「やりたくないこと」を可決された時に、議論のやり直しを求める、いわば拒否権の発動です。
これが発動されると、次は可決に2/3の賛成が必要となり、今のままではこれには達せず、削減案が葬りさられてしまいます。つまり、来年度の都心の自動運転バスの実証実験は復活することになるのです。
この再議に関しては、2年前にも似たケースがあり、ブログに書きました。
ブログ「アスマイルと主旨を逸脱した再議」
わかりにくいかもしれませんが、要するにこのケースでの再議は、法の主旨を逸脱した権限の濫用であり、地方自治・二元代表制の精神に反するものです。
永藤市長はここでゴリ押しすることなく、まずは我々が求めている「予算の全体像」と「まちづくりのビジョン」を早急に策定、提示、説明し、補正予算案として提案してもらいたいものです。
そうしてようやく、実証実験2億円が妥当かどうか検討できるというものです。
はたしてどうなるやら。
ぜひ3月27日の堺市議会本会議にご注目ください。
堺市議会議員ふちがみ猛志
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