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5000万で足らんとはどういうこっちゃ!!

政治家のお金の話をします。

先日、橋下徹さんが国会議員について「年間5000万のキャッシュが補償されるから、零細企業の痛みがわからない」という主旨の主張をし、それに対し尾辻かな子衆議院議員が「1講演200万円の人が、普通に暮らす人々の代弁者なのか」と返し、両者のバトルだとネットニュースになりました。

この件について、私はツイッターでいくつかのコメントを出したのですが、その流れの中で、

「実際は彼のいう『年間5000万のキャッシュ』では到底足りなくて、あれこれお金のことで苦労し、頭を悩ます国会議員がたくさんいる」

と書きましたところ、このことについて、「5000万で足らんわけないやろ」という主旨の批判をたくさん頂戴しました。まぁ、普通はそう思いますよね。


ちょっと言葉足らずだったツイートでありましたし、これは私たち議員の報酬の考え方にも通ずる話なので、一度、ブログでじっくりと書いてみたいと思います。

 

題して、『5000万で足らんとはどういうこっちゃ!!』です。

 

■5000万のキャッシュの実態
■議員にとっての報酬は、一般人にとっての〇〇
■「足りない」と思っているから〇〇をやる
■議員の活動費は千差万別
■最後に

という流れでお話します。

 

■5000万のキャッシュの実態
橋下さんが何をもって「5000万のキャッシュ」と表現したのか、その内訳を私は存じません。おそらく、こんなところだろうと思います。これは、国会議員の話ですからね。

①歳費(給与) 年間約2200万円
②文書交通費 年間1200万円
③立法事務費 年間780万円

以上の3つのことかと思うのですが、これで約4200万円です。
正確ではありませんが、これを「5000万のキャッシュ」と表現しても、それほど的外れではないでしょう。

 

この他にも、政党に支給される政党交付金があります。これが所属議員1人あたり、年間約4000万円くらいになるだろうと思います。私がかつて国会議員秘書を務めた政党では、このうち年間1000万円くらいが、党から各国会議員が代表を務める政党支部に支給されていました。
これも足すと、約5000万くらいになりますが、政党助成金をいくらくらい各政党支部に分配するかは、その政党次第ですし、そもそも共産党は、政党助成金を受け取っていません(共産党のこのポリシーについては、私は率直に「すごいなぁ」と思います)。

あと、③についても、基本的には会派に支給されるものですから、それがどのように議員個人、あるいは政党支部にまわっているか、会派ごとに大きな差異があろうかと思います。

とはいえ、いずれにしても、①②だけで3400万円ほど、③や政党助成金を足すと、4000万円から5000万円前後のキャッシュが、国会議員のもとにやってくるわけです。すごいですね。

 

では、それほど高額のキャッシュをもってして、私ふちがみが表現した「到底足りない国会議員」とは、どんな金遣いの荒い連中なのでしょうか?
いやいや、そうではないのです。

 

■議員にとっての報酬は、一般人にとっての〇〇
よくある誤解なのですが、この4000万なり、5000万なりのキャッシュが、すべて国会議員の『生活費』に充てられているわけではありません。(それで足りないのなら、ほんまに「どんな生活や!」って話です)

このキャッシュのうちの大半は、活動費に充てられています。(その充てられ方は、議員によって違いますが、それは後の項で)

事務所費、秘書の人件費、車の維持費(街宣車や、本人、秘書の車等)、チラシやポスターの印刷代・・・等々、膨大です。

公費で賄われる公設秘書もいますが、それは議員1人あたり3人です。この公設秘書だけでまわしている(まわせている)議員事務所なんて、私は聞いたことがありません。
たいてい、国会事務所に3人くらい、地元事務所に5人くらいの秘書配置が標準的と言えるでしょう。もっと多い事務所もあります。公設でない、5人ほどの私設秘書(と言います)の人件費は、かなりの負担です。

チラシやポスターの発行量はそれぞれですが、例えば、衆議院議員の選挙区の、おおよそ1/3で活動する市議会議員の私ですと、チラシだけで年間200万円以上支出します。年4回、堺区のほぼ全戸に配布し、支援者に郵送することもあります。自分でデザインし、安いネットプリントを使い、ポスティングの半分以上はボランティアに頼り、それでもそれくらいするんです。この頻度で、全戸配布している国会議員は少ないでしょうが、仮にそうだとしたら、ざっとその3倍の経費だけで、年間600万円以上にもなります。

 

そうなんです。

この「年間5000万のキャッシュ」は、「サラリーマンで言うところの給料」ではなく、「自営業で言うところの売り上げ」に近いものなんです。そこから、スタッフの人件費を含む様々な活動費(経費)が差し引かれ、残ったところが「議員の生活費」、つまり「自営業で言うところの社長の給料(や内部留保等)」となるわけです。

 

私たち、堺市議の報酬は、年間1300万円ほどです。「いいなぁ」と言われることもありますが、これも「自営業で言うところの売り上げ」でして、ここから様々な経費を差し引き、手元に残るお金は半分ほど(の感覚)です。このことは、以前ブログにも書きました。

https://fuchigami.info/議員の処遇①%ef%bd%9e前提としての現実%ef%bd%9e/

 

さすがに国会議員ならばもっと手元に残るでしょうが、生活費そのものも、一般の方よりは多くかかってしまうケースが多いんです。なんせ、地元と東京の二重生活ですからね。いくら、相場よりは格安の議員宿舎とは言え、年間100万円ほどは自腹です。家族が行き来する交通費も自腹です。お付き合いも世間一般より多く、お金もかかることでしょう。
何より、選挙にかかるお金がケタ違いで、そのための蓄えも必要でしょう。

 

念のため申しますが、この項で伝えたいのは、「議員にもっと金を」ということでは決してありません

国会議員が「5000万のキャッシュで優雅な生活をしているわけではない」ということです。

だから「5000万のキャッシュ」をもってして、「庶民の痛みがわからない」というのは、暴論だと思うのです(もちろん、わかっていない国会議員もたくさんいますがね)。

だって…、年間売り上げ5000万円の自営業者だったら、みなリッチで、庶民の気持ちがわからない人ばかりですか?違いますよね?

 

また、金額の多寡ではなく、このキャッシュが「保証されている」ということをもって、「庶民の気持ちがわからない」とおっしゃる方もいます。ただ、それも暴論だと思うのです。

例えば、衆議院議員はいきなり「解散」と言われ、一か月後に失業者になることだってあります。浮き沈みの大きい世界です。いくら任期中の報酬等々は保証されていても、身分そのものは大変不安定なものです。落選の辛酸を舐め、大変な苦労をされ、庶民の苦労にも思いを馳せられる政治家は、いくらでもいます。もちろん、落選の経験がなくとも、そういう方はいます。

要するに、一括りにすべきではないと思うのです。

 

■「足りない」と思っているから〇〇をやる
と、ここまで書いても「足りないわけがない」と思われる方がいますし、そんな批判も来そうです。特に、「身を切る改革」のあの党の支持者の方々から。
でも、その党の国会議員さんだって、ほとんどの方が政治資金パーティーをやっているんです。共産党以外の国会議員は、大多数がしているはずです。

それって「活動費が足りない」からではないですか?

まさか、足りているのに、よりリッチな生活をするため、今以上の生活費を確保するためにやっているんじゃないはずです。

「足りないわけがない」と思う方は、一度、支持する議員が政治資金パーティーをする時に訊いてみてください。「5000万のキャッシュで足りないの?」と。「十分な活動をするためには」等々の前置きをつけた上で、「足りない」と言うはずですから。

 

繰り返しますが、私は「だから増やせ」と言ってるんじゃありません。増やす必要はありません

「これだけあっても活動費が足りないケースが多い」ということ、だからそれぞれの議員が「苦労して活動費を確保する努力をしている」という現実を、お伝えしたいのです。

 

ちなみに私は、堺市議の報酬もこれ以上増やす必要はないと思っていますが、満足な活動をするには、やはり足りないのです。だから、個人献金を募っていますし、お陰様でたくさんの方々がそれに応じてくださり、本当に助かっています。ありがたいことです。ちなみに、私は政治資金パーティーはやったことがありません。

このような活動費の確保の仕方にも、議員それぞれのカラーが出ますので、注目してもらえたらと思います。

 

■議員の活動費は千差万別
とはいえ、「私は足りてるで」という議員さんも、たくさんいるはずです。

それは「議員の活動費は千差万別」だからです。

例えば、堺市議でも、年4回、区内ほぼ全戸に議会活動報告を配布する私もいれば、選挙前以外はほとんど発行されない方もいます。事務所を構える議員が多いですが、事務所を構えない人もいます。後者のような方は「足りる」と言うかもしれませんが、私はそれがいいこととも思えません。活動量によって、経費は大きく変わります。足りる、足りないの実態も変わります。

 

国会議員は、個々の活動量だけでなく、環境によっても変わります

一般的には、参議院議員よりも、衆議院議員の方が、地元にたくさんの秘書を抱えているケースが多いと言えます。常に解散を意識し、選挙モードだからです。また、選挙区の関係上、地域密着で有権者に顔が見えやすく(見せねばならず)、その点でも多数の秘書が必要となりがちです。
都心部を選挙区とする議員の方が、事務所家賃は高くなるでしょうが、地方の広大な選挙区を抱える衆議院議員になると、事務所を複数構えざるを得ないケースもあります。

一方、どこかの業界団体のお抱え議員であれば、経費の大半をその団体が(実質的に)出してくれているケースもあるでしょう。

 

5000万のキャッシュで足りるかどうか、生活費として手元にどれくらい残るかは、その議員の活動量や、環境に大きく左右されるのです。

だからこそ、議員を一括りにして、「5000万のキャッシュ=庶民の痛みがわからない」とするのは、あまりに短絡的で、不毛な批判だと思えるのです。

もちろん、議員になる以前の経歴も千差万別で、庶民の痛みを十分に味わってこられた方もたくさんいます。

 

■最後に
「足りない(ケースが多い)」という実情をご理解頂いても、やはりこれだけの額のお金となると、「もっと少ない費用で活動できないの?」と思われるのが自然だと思います。

私たちが「それが民主主義のコストだ!」と開き直ってしまえば、話は終わってしまいます。
「ならば活動量を減らします」と言っても、それが市民・国民のためになるものではないでしょう。

だから私は、議員が活動の質を、有権者の皆さんが「議員の見方、評価の仕方」を変えていかなければならないと思っています。

国会議員で言えば、時に国会そっちのけで地元に頻繁に帰り、地元に大勢の秘書を配置し、冠婚葬祭には(秘書の代理も含め)くまなく顔を出し、時には地元有権者を格安の飲食に招待する・・。こんなことをしていたら、お金がかかるのは当然です。(あ、最後はごく一部の方ですが。)
私もかつて国会議員秘書だった時、地元新聞のお悔やみ欄に載った方すべてに弔電を出していました。見知らぬ方も含めてです。相当な費用になっていました。こんなことはやめたいと、私も議員も思っていましたが、出さないと「〇〇議員は寄こさなかった」と言われてしまうという、地域の現実もあったのです。(大阪ではそこまでの話は聞きませんが)

要するに、議員の活動の質の問題は、「有権者が議員をどう見るか」という問題と、密接不可分なのです。

 

私も「通ってナンボ」の世界なので、何もかもをすぐに理想通りにはできません。

ただ、できる限り「議会活動の中身を知ってもらい、中身で評価してもらう」ことに努めていますし、その度合いを高めていきたいと思っています。
同時に、心ある方々としっかり通じながら、ボランティアによって支えられる、お金のかからない議員活動を展開し、かつ結果を出し、政治と有権者の間に横たわる「政治にお金はかかる」という文化を、少しずつでも変えていきたいと思っています。

そんな私の思いに応えて、カンパやボランティアでご協力頂いている皆様と、長文を読んでくださった皆様に感謝を申し上げて、このブログを終えます。

ありがとうございました。

 

■念のためおまけで
①このブログは、今の国会議員の歳費等の現状を肯定するものではありません。
②特に領収書不要の文書交通費などは改善すべきものです。
③「お金のかからない政治」にするための、制度面での改善の余地は多々あり、追々そのあたりについても書きたいと思っています。

 

 

堺市議会議員ふちがみ猛志

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