愛国と排外
大学生時代、私はスペインの聖地巡礼の道を歩いた。(欧州版のお遍路さん、かな)
強い信仰心を持っている人もいれば、私のように、クリスチャンではないが観光の延長線上という人もおり、世界中の人が歩いていた。
そんな巡礼者がその日の終わりに宿場に集い、交流を深める。
そこで、四国のお遍路さんも歩いたことがある大の日本好きのドイツ人に出会った。
宿場で、ある巡礼者はその日歩いた道がいかに美しかったか、ある巡礼者はいかに信仰心が満たされたかを語り合う中、彼は、
「日本のお遍路さんの方がもっと素晴らしい!」
と日本の話ばかりし、「なんて空気の読めない奴だ…」と冷たい目で見られていたことを思い出す。
しかし、それでも私は、彼がそれほど日本が好きなことを、本当に嬉しく、自分の国を誇らしく感じたものだ。
さて、また悲しいニュースがあった。
お遍路さんで、外国人排斥の貼り紙がたくさんなされたというもの。
正直、私はこの手のことをやる人のことを全く理解できない。
たいてい、こういうことをする人は愛国を名乗っているようだ。
しかし、こういう行為がどれほど世界において、愛する我が国の地位や信頼を貶めているか、分かっているのだろうか。
こういう人たちと比較して、私は自分のことを、真の愛国者だと思っている。
世界50カ国を旅し、日本の素晴らしさを実感した。
歴史や、文化や、自然や、モラルや、和食や、日本人の気質…。
それらを世界の人に知ってほしい、自慢したいと思っている。
そして、世界の人にも日本を好きになってほしい、と思っている。
実際、日本に来ている外国人観光客には、非常識な行為に及ぶ人もいる。
(今回の件はともかくとして)
しかし、それはお互い様というものだ。日本人が海外で、その国の文化や、その場のルールを知らず、非常識に及ぶこと、及んでしまうことだってある。
私だってしてしまったことがある。
程度の差こそあれ、「ある」のは一緒。
そこで、
「もうウチに来ないでくれ」
となるか、
「ルールはこうなんで、お願いできませんか?」
と教えてあげるか。
それでその国への印象が180度変わる。
私自身、数え切れないほど、海外で差別を受けたし、一方で優しくもされたから、よくわかる。
似たような事例で、最近、浦和レッズサポーターが、「外国人お断り」の横断幕を掲げて問題となる事件があった。
熱狂的な応援をするゴール裏に、外国人観光客が増えて、応援の一体感が崩れることを嫌ったそうだ。
だったら、なんで応援の仕方を教えてあげなかったんだろう?
私はアルゼンチンで、熱狂的な応援で知られる、ボカ・ジュニオールズをゴール裏で観戦したことがある。
当時、スペイン語もほとんどわからなかったが、
「そうか、我らがボカを地球の裏から応援しに来てくれたか!」
と大歓迎され、応援歌や、ブーイングの際の決して品の良くない言葉など、あれこれ教えてもらえた。
お陰で本当に楽しく応援できたし、私は、ボカというチームが大好きになった。
浦和レッズの試合を見にきた外国人観光客は、「Jリーグで一番熱狂的な応援のチーム」と知ってきた人もたくさんいただろう。
サポーターとして、なぜそれを誇りに思い、歓迎できなかったんだろうか。
差別的な対応をする人も一部。
よくしてくれる人も一部。
でも、海外から来た人の時間は限られているから、そこで出会った人との経験が、日本の印象の全てになってしまうこともある。
アジア諸国の経済成長や、来たる東京オリンピックで、海外から日本に来る人は、間違いなく増えてゆく。
堺も、百舌鳥・古市古墳群の世界遺産登録による観光客増加を目指している。
そんな中、こういったニュースが増えているのは、愛国者の私としては本当に堪え難い。
「日本はなんて冷たい、差別的な国なんだ!」と思って帰っていく人がいたとしたら、本当に辛い。
わずかばかりの希望は、こういった行為に及ぶ人も、例え歪んだものとは言え、日本を愛している点。
排外主義者の皆さん、
本当にあなたたちが愛しているものがあるならば、他の人にもそれを好きになってもらえるように、少しだけ視点を変えてみようよ。
労力はいらない。変わらない。
視点を変えるだけ。
出ていけ!と追い払う手で、
ようこそ!と手招きするだけ。
自分の住む国や、町や、応援するチームが、世界から愛されたら嬉しいでしょ。
大げさかもしれないけど、私は、そんな小さな積み重ねが、日本を好きな人を増やし、世界の中で、日本が愛され、尊敬を集めること、平和な国や地域や世界を作ることに、繋がっていくんだと思っている。
むしろ、そういった小さな積み重ねでしか実現しえないとも思っている。
ふちがみ猛志