アスマイルと主旨を逸脱した再議
予算議会が終了して2週間ほど経ってしまいましたが、この議会で「おでかけ応援バス」と同じくらいに盛り上がった(?)テーマが、「アスマイル」と「再議」です。
アスマイルについては、先日もブログに書きました。
アスマイルは、健康増進アプリです。
アプリそのものは、それほど悪いものではないと思っています。
ただし、
すでに大阪府が運用しているのに、わざわざ堺市が追加で費用負担すること。
全予算740万円のうち、2/3ほどが間接費用であること。
大阪府が2年も運用しているのに、その健康面でのメリットを定量的に検証していないこと。
堺市の追加費用負担のメリットが「健康データの入手」と言いながら、「具体的にどのようなデータか」について、当初議会で一切説明ができなかったこと。
などなど。
議会質疑はグダグダで、準備不足が甚だしく、「よくもまぁ、この状況で提案してきたなぁ」というのが、率直な感想です。
堺市が完全に新規でやる事業なら、「たいした予算じゃないし、いっちょ、試してみるか」というのもアリだと思います。しかし、すでに大阪府がやってきた事業です。やる気があれば、ちゃんと検証できるはずなんです。
なのにそれをまったくやっていない、説明もできない、と言うのですから、「大阪府がやることと言えば、無批判で受け入れる」と思われても当然です。
ちなみに、私がツイッターにあげたこの文言が気に入らなかったのか、永藤市長が引用して、私を批判されていましたが、まずは提案責任者として、あの質疑のグダグダぶりを反省してほしいものです。
さて、話が少し横道に逸れましたが、このアスマイルのグダグダ質疑には、さすがに「承認できない」と思う会派が続出し、結果的に公明党が「アスマイルの予算を削減する」という修正案を提出し、賛成多数で可決されました。
ところが、これが気に入らなかった永藤市長は、議会最終本会議で再議権を行使。
「アスマイルの予算を削減する修正案」の可決は、いったんリセットされ、改めて議論されることになったのです。
再議によって、差し戻された議案は、可決されるハードルが上がり、2/3の賛成が必要となります。
維新の会のみで、48人中18人の議席数ですから、すでに1/3を超えています。つまり、彼らが反対さえすれば、「2/3の賛成」をクリアできないのです。
こうして、「アスマイルの予算を削減する修正案」は、市長の再議権と、「過半数には満たないが、1/3は超える」という維新の数の力によって、葬り去られることとなりました。
では、ここで、その「再議とは何か」について書きます。
再議は、地方自治法の176条に規定があり、首長が議会の決定に異議がある場合、その決定を差し戻し、再び議論をして直しもらうという制度です。(177条にも規定されていますが、こちらは主旨が違う「再議」なので、このブログでは割愛します)
先述した通り、再議になった議案は、可決のハードルが通常の1/2から2/3に上がります。
議会が首長の意に添わない議案を提案・可決し、首長の行政運営がそれに拘束されてしまうことに対抗する手段として設けられた制度だと言えます。
もちろん、これは首長に認められた権限なので、永藤市長が今回の「アスマイルを削減する修正案の提案・可決」に対して、この再議権を行使したことは、違法でも何でもありません。
ただし、私には、再議制度の主旨を逸脱したものだったように感じてならないのです。
ちょっとわかりにく話ですが・・・
再議権は、「議会が『提案』し、『可決』したものに異議がある時」に行使できます。
一方、「首長が提案し、議会が否決したもの」には行使できません(※ただし、人件費等の義務的経費が入った案が否決された時は、177条の規定により再議となりますが、ここでは忘れてください)。
議会は、首長のチェック機関、自治体の最高意思決定機関であり、首長の提案に、〇×をつけることが最大の任務です。その議会が「ダメ」と言ったものを、首長が否定し返すことはできません(繰り返しますが、義務的経費は例外です)。
たとえば今回、永藤市長が提案した「おでかけ応援バスの削減条例」が否決されましたが、これに対して、市長が再議権を行使することはできません。
再議権はあくまでも、議会が「余計なことを提案し、首長にやらせようとした場合」の、それに対抗する手段なのです。
今回の「アスマイルを削減する修正案」は、形式上は「議会の提案・可決」ですから、再議権が行使できます。
ただし、実質上は「市長が提案した予算への一部否決」なのです。
予算案というものは、丸っと1つになって提案されます。1年間の、人件費も、光熱水費も、道路整備費も、生活保護費も・・・・、そしてアスマイルのような予算も。
採決は、全体に賛成するか、反対するかの2つに1つです。
ところが、言うまでもなく、「アスマイルは反対だけど、それ以外は賛成」ということもあり得ます。そのような場合には、議会は「削減を提案する」という形しか取れないのです。
ですから、今回のような議会の「削減提案」は、再議制度が想定している「議会よって、首長が余計なことをやらされてしまう提案」と言うより、「純然たるチェック行為」であり、「市長提案に対する一部否決」だと言えるでしょう。
形式的にどうかではなく、実質的にどうかを見れば、今回の「アスマイルを削減する修正提案 = 市長提案の予算のうちアスマイルのみの否決」は、再議制度の主旨に添うものだとは、私にはどうしても思えないのです。
そもそも再議権は、首長も議会も等しく民意の代表者だと捉える「二元代表制」においては、いわば伝家の宝刀です。
「使えるからいくらでも使う」という類のものではなく、首長は権力者として極めて自制的に、その使い方に慎重であるべきです。
その中で、以上述べたような「議会の提案・可決というより、市長提案に対する一部否決」に対して、使うべきだったのかどうか、主旨に添っていたのかどうか、甚だ疑問でなりません。
ましてや!!!!
わずか740万円の予算です。
市長が長年訴えてきた悲願の事業というわけでもないでしょうに。
一刻を争ってやらねばならない事業でもないでしょうに。
市長はよほど意固地になっていたんでしょうか。
ましてや!!!!
準備不足のグダグダ質疑だったんです。
少し待てば、5月議会に再提案もできたでしょうに。
そうすれば、しっかり準備して、大阪府での成果を検証し、議会(≒市民)にも丁寧に説明できたでしょうに。
市長はよほど対話がお嫌いなんでしょうか。
アスマイルそのものには肯定的な会派が多かっただけに、そうすれば5月議会は可決できていたと思います。
そうすれば、事業の開始がわずか3か月遅れるだけで、
主旨を逸脱した再議権なんて行使しなくてよかったのに。
議会というもう1つの民意に向き合うことができたのに。
そう思えてなりません。
二元代表制のもう一方の議会議員として、実に残念な再議権行使でした。
堺市議会議員ふちがみ猛志