虐待対策に大胆な予算投入を
昨日、「育ちと学び応援施策調査特別委員会」の研修会がありました。
日本子ども家庭福祉学会の理事であり、堺市の教育委員も務められ、また、かつては児童相談所で児童福祉司として現場も経験された、才村純先生による「児童虐待」をテーマにした講演でした。
まあ、何と申しますか。
「児童虐待」の講演なり、書籍なり、ニュースなり、、
聞く度に、本当に心が痛みます。
「もうゆるして」と書き残して亡くなった、4歳のゆあちゃんの事件。
学校へのSOSを、父親の威圧に屈して漏らしてしまった、小4のみあちゃんの事件。
児童相談所が何度も訪問しておきながら防げなかった、2歳のことりちゃんの事件。
こうした象徴的な事件に、私たちは衝撃を受けるわけですが、ニュースにもならない膨大な虐待事件が、この後ろに存在していることも、私たちは知っておかなければなりません。
ニュースで世間に知られることがなくとも、当事者の子どもたちは、同じように苦しんでいます。
ここで、私にとって印象的だった「数字」をご紹介します。
■虐待加害者の「約90%」は実親
私が虐待の問題について関心を持つまでは、虐待をするのは「実父以外の父」、つまり、再婚後の父親が多いのではないかと想像していました。前の夫の子を好きになれないとか、実子が生まれて養子が疎ましくなるとか、、、そんな気がしていました。しかし現実は、実親が90%にもなるのです。
実子を虐待してしまう親は、果たして特別な存在なのでしょうか?
私は決してそうは思えません。虐待は身近なところに潜み、多くの家庭に起こりうる問題であり、そこには多くの場合、子育ての悩みや、孤立があります。だからこそその対策には、地道で、身近な子育て支援こそが大事なんだと思います。
■実父による虐待の割合が6年で約1.5倍
平成23年のデータでは、虐待加害者のうち実母が約60%で、実父が30%弱でした。それが平成29年には実母、実父ともに40%台で拮抗してきています。
実父の増加原因はハッキリしませんが、才村先生によれば「面前DVが虐待として認知されてきたからではないか」と分析されていました。
虐待の概念は、一昔前よりずいぶんと広がっています。「それくらいのことで」と片付ける大人もいるのでしょうが、「それくらいのこと」で、子どもは大きく傷ついているということを、私たちは認識し、虐待への意識を改めていかなければなりません。
■虐待対応件数は30年で100倍超!?
国が統計を取り始めた1990年には全国で1100件ほどだった虐待対応件数が、2017年には13万件超に。
これは「対応件数」ですから、虐待そのものが増えていることだけではなく、虐待の通報がされやすくなっていることも原因だと考えられています。
今まで見つからなかった虐待が見つかり、対応されていること自体は前向きに考えねばなりませんが、、、児童相談所の現場が大変な激務になっていることは、この急激な増加から容易に想像がつくことです。
▪️職員1人あたりのケース数は100件超
では、どれくらいの激務になっているのかでしょうか。
大阪府では、児童相談所の職員一人が抱えるケース数が100件を超えています。虐待の疑われる、あるいは虐待のあった家庭を100件以上もケアするというのは、想像を絶する業務量です。
先述した、ことりちゃんの虐待死事件では、この業務過多が一つの原因ではないかと指摘されていますが、札幌の児童相談所の1人あたりのケース数は、実に150件にのぼっていました。
一方、海外では、ソーシャルワーカー1人あたりのケース数が、10数件から、せいぜい30件程度というのが一般的です。
諸条件が違うので、単純比較はできませんが、日本の状況が「異常」であるのは間違いありません。
児童相談所の体制強化は重要かつ喫緊の課題です。
■50%超が、後追いできていない
古いデータですが、平成21年中に乳児院から家庭に引き取られた事例のうち(虐待でいったん引き離されたものの、家庭に復帰)、その後に虐待の再発があったのが12.5%、そうはならず順調に過ごせているのが36.3%、そしてなんと、「わからない」が51.2%にもなるというのです。
これには私も衝撃を受けました。
虐待があって親子分離をした家庭は、様々なプログラムを経て、家庭への復帰(再統合)を目指すわけですが、当然ながら「戻してお終い」ではなく、引き続きのサポートが必要です。
児童相談所の人手が足りない、サポートしたくても連絡が取れない、、、理由は様々でしょうが、いずれにせよ「わからない」は問題です。
100%後追いできる仕組みが必要ですし、私なりに今後議会で議論・提案していこうと思っています。
まずは堺市の現状について、調査をしているところです。
■虐待死亡児童のうち、「生まれたその日」が20%超
虐待死で一番多いのは「生まれたその日の赤ちゃん」であるということは、かつて議会でも取り上げましたし、チラシにも掲載したことがあります。
改めてその数字を目にし、その状況を想像するだけで、胸が締め付けられます。
この数字は、虐待対策の対象が「子どものいる家庭」だけではダメだ、ということを証明しています。妊娠している女性、特に「意図しない妊娠をした女性」へのサポートが非常に重要なのです。
中学生や高校生が妊娠し、男性パートナーに逃げられ、家族にも、先生にも、友人にも相談できずに悩み、検診を受けることもなく、密かに一人で出産し、その瞬間に赤ちゃんを殺めてしまう。
そんな悲劇を想像してみてください。
妊娠期の寄り添いサポートや相談窓口の敷居を下げること、とりわけ若い女性にそれらを周知すること。さらには、適切な性教育を実施することが重要です。
■虐待による社会的コストは年額1.6兆円以上
以上のような虐待対策、とりわけ児童相談所の体制強化には、当然ながら人件費の大幅な増額が伴います。お金は降って湧くものではありませんし、どうしても「財源が許す範囲で」と、厳しい条件がついてしまうわけです。
「命よりも大事なものがあるか」と声を大にして主張しても、ない袖は振れません。
しかし才村先生によれば、そもそも虐待による社会的コストが、年額1.6兆円以上にもなるというのです。
被虐待児の保護先となる施設の運営費や、虐待死によるその将来の逸失利益、トラウマの治療のための医療費、教育機会を奪われたことによる生産性低下などなどです。
これらは、虐待がなければ発生しなかった社会的コストです。
一方で、虐待対策関係予算は、年間1000億円にも満たないものです。
「年額1.6兆円の社会的コストを減らすため」という視点に立っても、虐待対策に、もっと大胆なコストを投入することが可能なはず、しなければならないはず、ということは明らかです。
欧米では「がん対策」などと並んで、「虐待対策」を国家的重要課題と位置付けている国もあるようです。
ぜひ日本、堺市もそうありたいものですし、まずは私、ふちがみ猛志の中で、虐待問題を「最重要課題」と位置付けて取り組みたいと思っています。
堺市議会議員ふちがみ猛志